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ISASニュース

超小型深宇宙探査機「PROCYON(プロキオン)」のプロジェクト終了審査報告

No.422(2016年5月)掲載

 人が進歩するためには、実現可能な明確なゴールを決めて、そこに向かって計画を立て、この達成度を評価することが重要です。そして、その中で得られた知見を、次につなげていくことで人は、より高い理想に向かうことができます。こうした、試行錯誤による学習は、研究開発活動の根幹となります。一方で計画が大きくなってくると人間の想像力には、どうしても限界があり、大きな計画が大きな失敗とならないように、有識者と一緒に考え、ステップバイステップにより、より良い方向に向かうことが必要です。こうしたプロジェクトの計画や成果について、JAXAではその終了時点で専門家による審査により評価を行ないます。プロキオンについても同様で、先日合格となり、所内プロジェクトは終了することになりました。今後は、超小型探査機開発拠点(後述)を通じて、軌道上不具合の原因究明・改良を継続し、また米国SLS相乗りCubeSatや、母船搭載型子機などの、さらに小型の探査機プロジェクトの実現に向けて、成果やレッスンズラーンドを引き継いでいきます。

 プロキオンでは深宇宙探査機を自らの手で開発・運用する貴重な機会をとらえ、日本の宇宙科学の人材育成の場として、大学およびISAS/JAXAの若手を中心に総勢50名以上の研究者・技術者・学生が、共同研究により共通の目標に向かってプロジェクトに参加しました。そして、将来の低コスト超小型深宇宙探査ミッションに向けて、最初の道を切り開くことができ、日本はこの分野で優位に立つことができました。2015年度に東京大学に設置され活動を開始した超小型探査機開発拠点(ISAS大学共同利用連携拠点)の実現にもつながり、相互に軌道上成果が展開されるなどの波及効果がありました。

 低コスト衛星管制システムや、JAXA深宇宙局による並行受信実験、山口大学の32m電波望遠鏡によるテレメトリ受信実験など、この中に含まれない成果もありますが、ノミナル・アドバンスミッション、サイエンス観測の3本の柱を軸に、最終目標として小惑星(2,000DP107)に到達し、観測を行うことを目的としていました。ノミナルミッションである超小型深宇宙探査機バス技術(電源、通信、姿勢制御、推進系などの超小型深宇宙探査機に必要な基本的な機能)の軌道上実証に成功したものの、搭載イオンスラスタの不調により、小惑星の接近フライバイ観測を断念したので、アドバンスミッションの一部については計画変更を経て、科学観測や地球最接近に向けた地球・月撮像などを関連実験や部分的機能実証の中で行なってきました。そして打上げから1年後の地球最接近後の翌日(平成27〔2015〕年12月3日の運用終了以降)には、Webサイトにお知らせ掲載したとおり、原因不明の通信不通が発生したため、2016年3月末まで正常運用への復帰を目指し、通信の確保を模索してきたところです。

 探査機が復旧した場合には、今後も大きな工学・理学成果が期待されるため、来年3月末まで探索・復旧運用を実施予定です。これまで力を合わせて下さった皆さんにこの場を借りてお礼申し上げます。

(冨木 淳史)