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ISASニュース

金星の新しい姿をとらえる「あかつき」IR2、本格始動!

No.422(2016年5月)掲載

 2015年 12月、「あかつき」が金星周回軌道に入ってすぐに4台のカメラが撮影した金星ファーストライト画像があります。日付を見ると、おや? IR2だけが他より4日遅いですね。IR2は冷凍機を使い、その「眼」に相当する検出素子を−200℃以下にまで冷やす「一手間かかる」赤外線カメラです。そのため装置の立ち上げに時間を要したのです。そして周回軌道に入ってからも、その熱環境下で必要な冷却を得るのがまた大変。特にカメラ開口部のある面へ日光が当たる探査機姿勢、つまり金星夜面の観測は苦労の連続でした。最初のまともな金星夜面画像が得られたのは 2016年3月13日、金星周回が始まってすでに3カ月も経過していました。そしてついに!今号表紙を飾るド迫力の金星夜面画像(波長 2.26マイクロメートル、金星からの距離約10万km)を3月25日に得ることができたのです。「あかつき」到着前にミッションを終了した欧州 Venus Expressは極軌道の上この波長の観測画像は画素数256×256でしたから、赤道付近からの全球画像(直径約 500画素)でこれほど鮮明に、複雑な雲の様相をとらえたのは、まさに史上初なのです。

 この画像がサーバ上でアクセス可能になった4月1日の夜、それは英国オックスフォードで開催される国際金星科学会議へと出発する前々日のことでした。4日に始まった会議の3日目には「あかつき」セッションが設けられ、私は IR2の報告で先に述べたような苦労を語ってゆきます。そして15分講演のいよいよ最後、「この1枚」をドーンと出したところ、まだ講演終了前でしたが満場の拍手となったのです(取材に来ていた「Nature」のニュース記者も、会場のこの反応に驚きを隠しませんでした)。15年以上の苦労が報われた瞬間ですね。もちろんまだまだ序の口、「あかつき」はこれから何年も、金星の新しい姿をとらえ、世界を驚かしてゆくのです!

(佐藤 毅彦)

世界中から国際金星科学会議に集まった研究者

世界中から国際金星科学会議に集まった研究者。翌日の衛星運用担当のため筆者はすでに会場を離れていた。