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ISASニュース

X線天文衛星「ひとみ」誕生

No.420(2016年3月)掲載

 2016年2月17日、X線天文衛星ASTRO-Hは成功裏に打ち上げられ、「ひとみ」と命名されました。打上げ後、12日間のクリティカルフェーズの間に、軟X線分光検出器(SXS)の冷却システムを立ち上げ、50mKに冷却してX線マイクロカロリメータの性能を確認し、2月28日には伸展式光学ベンチ(EOB)の伸展作業を行い、最終的な形態となりました。3月末までに、ほかの搭載装置を立ち上げることで、4月の初旬には計画通り、X線天体を用いたキャリブレーション観測に移行できそうです。

 「ひとみ」は、重量約2.7トン、長さ約14m(伸展時)に達する大型の科学衛星です。EOB収納時でも8.5mにもなります。そのため、相模原キャンパスではなく、大型衛星試験設備のある筑波宇宙センターを本拠地として、衛星の組み上げと試験を行いました。昨年12月6日に衛星を種子島に迎えた後も、たくさんのチームメンバーが種子島に行き、輸送後の試験、ロケットへの結合作業に対応してきました。2月16日から17日の夜を徹した打上げに際しては、種子島宇宙センターに59人が詰めて、打上げオペレーションを行いました。「ひとみ」の軌道の場合、打上げから約46分後にチリのサンチアゴ局、約102分後に内之浦局で「ひとみ」との通信が可能になります。それぞれの可視時間は短く、10分足らずの間に、衛星の健全性を確認し必要な立ち上げ作業を行うと同時に、状況によっては適切な対応を瞬時に行わないといけません。そのために、内之浦に79人、相模原に38人、さらに筑波に40人と、種子島の59人を合わせて合計216人もの態勢で、打上げ直後の立ち上げ作業に臨みました。

 日本は、X線天文学の発祥より「はくちょう」「てんま」「ぎんが」「あすか」「すざく」と、特徴のある衛星を連続的に打ち上げ、国際的に大きな役割を担ってきたと言えます。「ひとみ」は、これまでのX線天文衛星に比べて格段に優れた性能で“熱い宇宙”を観測し、現代天文学の数々の謎を解くことを目指して開発されました。X線望遠鏡とその焦点面検出器、そして軟ガンマ線検出器は、「ひとみ」に参加する研究者の20年以上もの絶え間ない研究の成果が結実したものです。

 「ひとみ」は画竜点睛の故事にいうところの“睛”であり、物事の最も肝要なところという意味を持ちます。「ひとみ」は、これまで誰も予想もしていなかったような観測結果を次々ともたらし、宇宙を知る“最も肝要なところ”となることが期待されています。銀河の中心にあまねく存在する巨大ブラックホールがどのように生まれ、銀河と共に進化しているのか。数百個もの銀河が集まり、1000万光年にも広がる銀河団がどうやって形づくられたのか。そもそも、138億年の歴史の中で、宇宙はどのようにして進化して、現在の姿に至ったのか。こうした謎を解くため、「ひとみ」は、超高分解能分光観測と0.3keVの軟X線から600keVの軟ガンマ線までの広帯域の高感度観測を同時に実現することで、X線天文学の分野で世界をさらにリードし、宇宙科学の分野に新たな流れをつくって、大きく貢献するはずです。

 「ひとみ」は、これまでのX線天文衛星と比べて規模が大きく、それだけに、その実現には非常にたくさんの人の力が注がれています。X線コミュニティが一体となったばかりでなく、熱、構造、姿勢制御、電源など、宇宙研の工学グループやJAXA研究開発部門の多くのエンジニアの方々の力を合わせて開発が行われました。加えて、プロジェクト遂行およびロケット打上げに当たって、JAXAや参加機関のさまざまな部門の方々に多大な協力を頂きました。ここに深く感謝致します。

(「ひとみ」(ASTRO-H)プロジェクトマネージャ 高橋 忠幸)

打上げが成功し握手を交わす、高橋プロジェクトマネージャ(左)と布野泰広 JAXA執行役

打上げが成功し握手を交わす、高橋プロジェクトマネージャ(左)と布野泰広 JAXA執行役

内之浦宇宙空間観測所から「ひとみ」の打上げ後の運用を行ったメンバー

内之浦宇宙空間観測所から「ひとみ」の打上げ後の運用を行ったメンバー