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ISASニュース

ESTEC Open DayでBepiColomboフライトモデル公開

No.418(2016年1月)掲載

 日欧共同水星探査計画BepiColomboは、JAXAの水星磁気圏探査機(MMO)とESA(欧州宇宙機関)の水星表面探査機(MPO)を水星周回軌道に送り込み、太陽に最も近い灼熱の惑星を包括的に観測する挑戦的なミッションです。惑星間航行中は、MMOとMPOを水星まで運ぶための電気推進モジュール(MTM)も合わせ、だんご3兄弟的形状となります。

 MMOは、JAXA相模原キャンパスでの組み立て試験を終え、現在はオランダにあるESTEC(欧州宇宙研究技術センター)において、ESA側モジュールとの結合試験の準備作業を続けています。そのESTECで、2015年10月4日、年に一度の一般公開イベント(Open Day)が開催され、BepiColombo各モジュールのフライトモデルも公開されました。

 今年は1万2000名限定の事前予約制とされましたが、6月ごろからWebなどで宣伝が始められ、欧州の4名の宇宙飛行士の講演サイン会とBepiColomboフライトモデルの展示を目玉企画とし、予約は早々にいっぱいとなったようです。

 フライトモデル展示に向けて、ESTECスタッフの間では、探査機をどのように展示するか大議論となりました。探査機は温湿度および清浄度を管理したクリーンルーム内で製作・試験を行っています。探査機を見るにはセキュリティエリアに入る必要がありますが、多くの方を入れることはできません。そこで、見学用の窓をつくってしまおうということになりました。

 公開前々日、窓の工事を実施しました。クリーンルームの隣の部屋は機材を搬入出するための開梱室で、壁一面の巨大なシャッターで仕切られています。そのシャッターを2mほど開け、大きなアクリル板をはめ込み、外気がクリーンルーム内に入らないよう周囲をゴムでシールしました。空気中の微粒子数を常時計測し、清浄度規格を超過しないことを確認しながらの作業です。探査機開発担当者が心配して見守る中、工事は無事に完了しました。その後、各探査機を見やすい位置に移動させ、床置き照明の設置を行い、クリーンルーム内の準備を完了しました。これで開梱室から水星探査機を見学できるようになりました。

 公開前日、開梱室の整備を行いました。パーティションを並べて見学者の動線をつくり、並んでいる間に読めるよう説明パネルやポスターを張りました。配布用グッズも机に並べ、準備万端です。夕方、ESA Security Officerの確認を受けました。すると、さすがプロフェッショナルと感心したのですが、パーティションは倒れる危険があるので規制ロープに変更、見学者の流れをスムーズにするよう通路は入場側を狭く出場側を広くする、説明パネルとグッズは人の流れが停滞しないよう出口に置くなどの助言があり、夜までかかってレイアウト変更を行いました。

 公開当日、早朝から最終確認、探査機をライトアップする照明スイッチオン。と、ここで問題が発生しました。本来はクリーンルームの天井灯を暗くして、床置きした青いライトが幻想的に探査機を浮かび上がらせるはずでした。前日の夜はとてもきれいに見えたのですが、日中の明るさの中ではアクリル板に外光が反射してクリーンルーム内が見にくくなってしまいます。仕方なくプランを変更し、苦心して設置した床置き照明の使用を諦め、天井灯を明るくして見ていただくことにしました。

 10時、開門です。探査機を見るための行列がどんどん長くなっていきます。あっという間に30分待ちの列ができていました。某テーマパークのように「10分待ち」「20分待ち」「30分待ち」の看板をつくって立てました。水星探査機の説明はESAから3名とJAXAから1名の計4名で対応しました。見学者は欧州中から来ているようで、さまざまな言語が聞こえます。説明者4名の前には質問を待つ人の列ができるほど関心を持っていただけました。配布用グッズは昼すぎにはなくなり、17時の終了時間まで見学者が途切れることはありませんでした。水星探査への関心の高さを再確認し、スタッフ一同、ミッション成功への決意を新たにしたのでした。

 次にESTEC Open Dayに参加する機会があるならば、説明員ではなく見学者として回ってみたいと思います。

(前島 弘則)

本番では披露できなかったブルーライトに浮かび上がる水星探査機。左からMPO、MTM、黒い保護カバー付きの八角柱形状がMMO。

本番では披露できなかったブルーライトに浮かび上がる水星探査機。左からMPO、MTM、黒い保護カバー付きの八角柱形状がMMO。 [画像クリックで拡大]