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ISASニュース

手づくり観測器宇宙へ

No.416(2015年11月)掲載

 5月下旬の某日、同僚の福島洋介さんから「次の観測ロケットで搭載質量に余裕ができたからHOS(ホス)をつくりませんか」と言われました。HOSは水平線センサ(Horizon Sensor)とも呼ばれ、宇宙と地球との境目(水平線)を検出し、ロケット(あるいは衛星)の姿勢を知るための装置です。観測ロケットの打上げに間に合わせるには約1ヶ月で製作しなければならないという時間的に厳しいものでしたが、自分で搭載装置をつくるという機会はあまりないことなので、その話に飛び付いたのでした。

 お金もなかったので、手づくりすることになりました。HOSの原理は、カメラで地球を撮影し画像処理して水平線を見つけるというだけのものです。しかし、搭載予定の観測ロケットS-520の30号機は夜打上げのため、普通の可視光用カメラでは撮影できない可能性がありました。そこで、FLIR leptonという廉価な長波長赤外線カメラを使用することにしました。ケースは、卓上の工作機械(CNC)を使ってアルミのブロックから4日間ほどかけて削り出しました。プリント基板も同じくCNCで削り出しました。そして、試行錯誤を繰り返しながらも何とか噛合せ試験までにHOSが完成したのでした。左上の写真が、できたHOSの中身です。試行錯誤の跡が生々しいことになっています。右上は、ロケットに取り付けたときの写真です。

 幾多の試験を経て、打上げ当日の9月11日がやって来ました。手づくりのHOSが旅立っていきます。ロケットが打ち上がると温度が上がったノーズコーンの画像が送られてきました。ノーズコーンが開けば地球の映像が送られてくるはずですが、カメラが地球とはまったく違う方向を向いていたらHOSとしての役目を果たすことができません。しかしノーズコーンが開くと、送られてきた画像(左下)には運よく地球が入っていました! 水平線も検出しています(赤線)。 その後ロケットの動きに合わせて地球の像は移動していき、姿勢が変わると地球の見え方も変わりました(右下)。HOSとしてきちんと機能したのでした。成功してもしなくても泣いてしまうかと思いましたが、実際は感動というよりは安堵でした。

 最後に、このような楽しく有意義な機会を与えていただきました観測ロケットの関係者の皆さまに深く感謝致します。

(三田 信)

左上はHOSの内部、右上は観測ロケットに取り付けた様子

左上はHOSの内部、右上は観測ロケットに取り付けた様子。左下はノーズコーンが開いた直後の画像で、赤線が水平線。姿勢が変わると地球(赤色部分)の見え方も変わる(右下)。[画像クリックで拡大]