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ISASニュース

金星探査機「あかつき」の近日点通過

No.415(2015年10月)掲載

 金星探査機「あかつき」は、2010年12月に金星周回軌道に投入することができず、太陽を巡る新しい軌道に入ってしまいました。この軌道は周期約200日で、最も太陽に近づく距離は約0.6天文単位(1天文単位は太陽と地球の距離。約1億4960万km)です。「あかつき」は地球を飛び立った時点で太陽から約1400W/m2の光を浴びており、その後いったん太陽から遠ざかる軌道を取ったため、約1200W/m2にまで下がりました。金星(太陽距離約0.7天文単位)にたどり着いたときには約2650W/m2であり、設計時に想定した最大熱入力は2800W/m2です。しかし、現在の軌道の近日点では、約3650W/m2という設計を大幅に逸脱する条件となります。

 太陽からの光の強弱により探査機全体の温度も上下します。例えば太陽電池パドルの温度は、地球を飛び立ったときは45℃くらいで、金星軌道にたどり着いたときは約110℃まで上がりました。これが近日点を通過するたびに約140℃まで上昇するわけです。太陽電池パドルの設計仕様は上限180℃となっていますから、これ自体は問題はありませんが、スラスターのバルブなどいくつかの機器で設計仕様を上回る温度となるものがあります。最も安全な姿勢として、高利得アンテナが設置されている面を常に太陽に向けて航行する方針が決定されたのは、2011年春のことです。この後、再び金星にたどり着くまでは高利得アンテナで地球と通信を取ることはできなくなり、運用上多くの制約を生むことにもなりました。

 8月30日に最後(9回目)の近日点通過をし、その後、徐々に探査機各部の温度は下がってきています。今後はプロジェクトとして、金星周回軌道投入およびその後の観測運用に全力を傾けることができます。今回も「あかつき」の無事を祈ってくださる方々から多くのお言葉を掛けていただきました。ありがとうございます。

(中村 正人)

探査機各部の温度

探査機各部の温度。2011年春までは姿勢を変化させて温度をモニターしたため、データにばらつきが見られる。[画像クリックで拡大]