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ISASニュース

平成27年度第一次気球実験

No.415(2015年10月)掲載

 平成27年度第一次気球実験は、7月30日から連携協力拠点である北海道の大樹航空宇宙実験場において実施されました。

 8月5日に測風ゴム気球を放球した後、翌6日に「成層圏大気のクライオサンプリング実験」を実施しました。この実験は、温室効果気体をはじめとするさまざまな大気成分の濃度や同位体比の測定に、得られた試料空気を供することを目的としたものです。液体ヘリウムを利用したポンプで大気成分のほとんどすべてを凝縮固化して採集するクライオジェニック法を用いて、希薄な成層圏大気を固化して大量に採集します。気球の上昇中および浮遊飛翔中の11の高度で、大気採集を行いました。今後は、採集された大気試料を最先端の分析装置を用いて詳しく解析していきます。

 並行して、中層大気中の微生物の形態と高度分布を観測することを目的とした「成層圏における微生物捕獲実験」の準備を進めました。これまではポンプで吸い込んだ成層圏大気をフィルタでこして微生物を捕獲する方法を用いていましたが、今回は観測装置が気球から切り離されてパラシュートで降下する間に、原理的にコンタミネーションが起きないインパクタ式という新しい方法で微生物採取に取り組む実験でした。お盆休み明けの8月20日、翌日に放球できそうだという状況に至ったのですが、残念なことに、最終試験中に捕獲装置にトラブルが発生しました。問題解決に必要な時間を考えると高層風が実験に適さなくなってしまうことが予測されたため、今季の実施を見送ることとなりました。

 今年度の第一次気球実験の最後は、「国際宇宙ステーション(ISS)からの放出衛星(EGG)の搭載機器の動作確認および運用確認試験」でした。将来の地球帰還システムへの応用が期待されている展開型柔軟エアロシェルによる大気圏突入システム開発の一環として、ISS放出超小型衛星EGGのエンジニアリングモデルをゴム気球で飛翔させ、民間の衛星通信経由による太陽電池パネル展開やガス放出シーケンス試験を実施するものです。8月22日早朝に放球されたゴム気球によってEGGエンジニアリングモデルが高度31.7kmにまで上昇する間、予定された動作確認および運用確認試験が行われました。この結果は、今後のEGG実験機のフライトモデルの製作や運用計画の立案に生かされていきます。

 今年度は4〜5月にオーストラリアでの気球実験を実施したため、北海道大樹町では今回の夏の実験のみとなりました。ご協力いただいた関係者の皆さまに深く感謝致します。

(吉田 哲也)