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ISASニュース

宇宙科学の戦略的な推進のために

No.414(2015年9月)掲載

 『ISASニュース』編集委員会よりタイトルのような内容で原稿を依頼された。それを書くためには、初めに戦略的推進とは何であるかを考えなければならない。その答えの一つは「プログラム化」、すなわち本年1月に策定された新「宇宙基本計画」において「太陽系探査科学分野については、効果的・効率的に活動を行える無人探査を、ボトムアップの議論に基づくだけでなく、プログラム化も行いつつ進める」と述べられた「プログラム化」であろう。

 新「宇宙基本計画」には「プログラム化」をボトムアップと相対する存在のごとく表現されてしまっているが、私は必ずしもそうではないと考えている。私は、プログラムを、JAXAの定義に従って「大きなビジョンに基づいた大きな目的達成のために、単一のプロジェクトだけを考えるのではなく、必要に応じて複数のプロジェクトを組み合わせた工程を考え、さらに、これらのプロジェクト実現に必要な技術開発の戦略的な推進を含めて行う総合的な取り組み」と定義したい。これまでJAXAは、宇宙科学全体を一つのプログラムとして定義し、技術開発からプロジェクトまでをひとまとめに推進してきた(宇宙科学プログラム)。しかし、各分野の科学目標の高度化・複雑化とともに目的達成に必要な技術的ハードルも高くなり、同時に、プロジェクトの大型化・高額化により実施頻度が低下したことから、宇宙科学全体よりもう少し小さな研究領域ごとに、しかし細かくなり過ぎない程度の粒度の研究領域ごとに、上記のプログラム的視点で宇宙科学全体の状況も見ながら戦略を立てていくことが必要になってきている。

 上記の新「宇宙基本計画」の文言には、その一端が現れていると見ることができる。これまでも宇宙理学委員会・宇宙工学委員会、および、それらの下に設置された合同委員会において、研究領域ごとの戦略の議論は行われてきた。私は2013年以降のこれらの議論に参加してきたが、残念ながらそこで十分に実りのある議論ができたとは思えない。そうなってしまったのには複数の理由があると思われるが、私は本質的には、(1)限られた人数の研究分野の代表が、(2)パワーポイント的な資料に基づいて口頭で述べた内容から行った議論では、事実と論理に立脚した地に足の着いた議論であるという確証が十分得られず、そこから自信を持って「これが戦略である」と結論することは不可能であった、ということだったと考えている。

 この状況を変えるには、(1)(2)の裏返しが必要である。すなわち、できるだけ多くの人が参加して、各分野の考え方を文章と図を用いた論理的に整合性の取れた文書としてまとめてもらうことから始める必要がある。NASAはDecadal Surveyとして、ESAはCosmic Visionとして、各研究分野の戦略を各分野の研究者が多く参加する形でまとめてもらう活動を推進してきている。NASAはそれを何度も実施することでやり方を改良し、近年はプロジェクト候補の実現性評価まで資金を投資して実施している。対して日本では、前記のように委員会がまとめる、JAXAが人を選んでまとめてもらう、あるいは、学会などが音頭を取って分野ごとに議論を行ってまとめる、ということは行ってきたが、宇宙科学の全分野について広く意見を文書としてまとめてもらう、ということは行ってこなかった。

 以上の状況を見て2014年末に「研究領域の目的・戦略・工程表提供のお願い」という文書を出した。正式な通知前の説明会から数えても提出まで約2ヶ月半という短い準備期間であったにもかかわらず、各研究コミュニティーから質の高い文書を提出していただいた。今回は初めての試みでもあり、提出いただく際の研究分野の粒度をどの程度にすべきかを規定できないなど、手探り状態であった。宇宙研は提出いただいた文書を分析する「宇宙科学・探査プログラム検討チーム」を所長決定により設置し、分析と集約を行ってきた。これまでに、研究領域を大くくりし、その大くくりした領域ごとに、(a)研究領域の大きな目的、(b)大目的を達成するためのより具体的な中目的、(c)中目的を達成するための手段、という3階層への整理を試みている。その結果は、宇宙理学・工学委員会の会議資料としてwebに掲載されており、班員であれば閲覧可能である。班員の方々は、ぜひご覧いただきたい。

 各研究領域の目的・戦略・工程表を提供していただいた目的は、「研究領域の大きな目標を達成するために最も良い施策を、宇宙科学全体の視点に立ちながら宇宙研が立案し実行することに役立てる」ことである。それは「研究領域の目的・戦略・工程表」の目的と戦略の先鋭化とともに進める必要がある。そのために3階層への整理の考え方を各研究領域の方々と共有する必要があると考えており、すでに一部の研究領域の方々とは話をさせていただいたところである。

(満田 和久)