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ISASニュース

X線天文衛星ASTRO-H熱真空試験

No.413(2015年8月)掲載

 6月24日から7月9日にかけて、X線天文衛星ASTRO-Hの熱真空試験が、筑波宇宙センター13mチャンバで実施されました。熱真空試験は、衛星を宇宙の真空および熱的環境にさらすことで熱モデルの検証を行う、電気試験によって軌道上での観測機器の機能・性能を実証する、という目的があります。総合試験における大きな山場で、120人にも及ぶチームメンバーとJAXAエンジニアが、衛星システムメーカーや設備担当の皆さんと共に、24時間体制で試験に臨みました。参加場所も、チェックアウト室、クリーンルーム、チャンバ制御室、相模原など複数箇所に分かれましたが、すべての場所を音声と映像でつなぐシステムを整えたことで、お互い情報を共有し、試験を円滑に進めることができました。

 ASTRO-Hの主要観測装置である軟X線分光検出器(SXS)は、検出器を50mKまで冷やすことで、過去に例のない分光性能を実現します。その性能を維持するには大規模な治具を要するため、今回の衛星規模の試験がSXSにとって初めての熱真空試験となりました。開始前には不安もありましたが、SXSチームが慎重に準備を行ってきたかいあって、熱真空環境下でも軌道上要求を十分満たす分光性能を持つことを示すことができました。そのほかの観測装置である軟X線撮像検出器(SXI)、硬X線撮像検出器(HXI)、軟ガンマ線検出器(SGD)については、衛星搭載後、初めて低温真空下で動作させる機会となりました。それぞれ期待通りの性能が確認され、軌道上で使うコマンドの実証、キャリブレーションデータの取得など、すべての試験項目を通過することができました。

 熱試験としても、熱モデル評価に必要なデータをすべて取得し、現在詳細な評価が行われています。2012年に熱試験モデルを用いた試験を実施しましたが、このときに苦労した点(衛星昇温時に温度が上がらなかった、ヒートパイプが起動しにくかった)に万全な対策を施したことで、試験期間中、熱システムの皆さんの意図した通りに衛星温度を制御することができました。

 熱真空試験を終え、ASTRO-Hとしては一つの山を越えたことになりますが、8月にはもう一つの山場である音響・振動試験が実施されます。現在はその試験に向け、着々と準備が進められています。

(佐藤 理江)

熱真空試験に向けて13mチャンバに搬入されたASTRO-H。ソーラー光を照射して事前チェックを行っているところ。

熱真空試験に向けて13mチャンバに搬入されたASTRO-H。ソーラー光を照射して事前チェックを行っているところ。