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ISASニュース

オーストラリア気球実験 〜エマルションガンマ線望遠鏡を用いた宇宙ガンマ線観測〜

No.412(2015年7月)掲載

 4月上旬から5月下旬にかけて、オーストラリアにて気球実験を実施しました。この実験はオーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)との合意のもと、ニューサウスウェールズ大学が管理するアリススプリングス気球放球基地を拠点として行いました。

 およそ1ヶ月かけて気球追尾用の地上通信装置の構築、気球放球装置の組み立て、気球搭載機器の動作確認などを行い、5月12日にエマルションガンマ線望遠鏡を用いた宇宙ガンマ線観測実験(GRAINE)を実施しました(表紙)。GRAINEは神戸大学、名古屋大学などが参加している実験で、数十MeV〜100GeVのエネルギー領域のガンマ線の到来方向を高解像度で観測し、ガンマ線天体の空間構造ならびにガンマ線放射機構の解明を目指しています。GRAINEでは、特殊な写真フィルムである原子核乾板(エマルションフィルム)を用いることにより、現時点で最も進んだ観測がなされているフェルミガンマ線宇宙望遠鏡(天文衛星)よりもさらに上をいく高解像度観測を気球実験で実現しようとしています。今回の観測では、エマルションガンマ線望遠鏡の性能評価の最終段階としてVela(ほ座)パルサーからのガンマ線を観測し、システム全体としての角度分解能の評価を行うことを目的としています。

 気球は5月12日午前6時3分(日本時間)にアリススプリングスから放球され、およそ14時間の飛翔の後、午後8時25分(日本時間)にクイーンズランド州ロングリーチの北方約130kmに着地しました。翌日には観測機器の回収も無事に完了し、回収されたエマルションフィルムはシドニー大学に送られて現像処理が行われました。今後は名古屋大学の高速スキャニング装置を用いてエマルションフィルムに記録されている情報の読み出しが行われ、データの解析が進められる予定です。

 今回の実験はオーストラリア気球実験の第一弾ということもあり、国内での準備段階から多くの方々にご支援を頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。

(濱田 要)