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ISASニュース

「宇宙探査イノベーションハブ」新設

No.411(2015年6月)掲載

 日本は、国際宇宙ステーションの根幹部分を担い、世界15ヶ国と協働しながら地球近傍での有人宇宙活動を行っている。また、「かぐや」による月、「はやぶさ」「はやぶさ2」による小惑星への無人探査を独自に進めている。ここまでの達成をもとに「宇宙科学」「宇宙工学」「有人宇宙活動」と連携しつつ、今後推し進めたい「宇宙探査」とは、人類の生存圏・活動領域を太陽系宇宙に拡大し、新たな宇宙開発利用の価値を創出する事業である。人類のフロンティアを切り開く宇宙探査は、産学官を魅了し糾合するには有り余るトピックスだ。しかし残念なことに、狭い仲間内と古典的手法にとらわれ過ぎて斬新なアプローチが取れず、次々とは魅力的なミッションを創造できていない。このような分析と反省のもと、JAXAは宇宙探査を未来の事業として見定めて、産学官の英知を結集する新たな施策でここに乗り出そうとしている。

 新しい部門「宇宙探査イノベーションハブ」(以下、探査ハブ)は、既成組織でない新たな参加者を募り、新機軸として宇宙探査に資する技術研究開発を目指している。ここで培った技術を基に革新的な宇宙ミッションを実現させるだけでなく、参加組織が宇宙のみならず地上への応用展開を図り、成果を波及拡大させたい。これまでのJAXAからの「発注型」形態から脱却し、共同開発に基づいた「参画型」の宇宙開発利用を実現し、社会にGame Change(現状を打破する/革新的な/考え方を根本から変える)を巻き起こすのだ。地上との親和性の高い月や火星など重力天体表面でのロボットによる探査活動に着目し、分散協調・自動化・自律化と遠隔操作のベストミックス、およびその場資源利用といった研究課題を想定し、まず研究開発に着手する。これらを端緒に研究課題を宇宙探査活動全般に拡大させたい。

 具体的に、次のような施策を準備している。研究課題を広くJAXA外にも求めるため、日本各地で複数回のワークショップを開催し、対話や議論、課題抽出を行う。産学官から人材を糾合し異分野融合を加速させるために、クロスアポイントメント制度※にて雇用環境を整えて、企業技術者・国内外研究者をJAXAに招聘する。探査ハブをJAXA内の特区と位置づけ、ここから生み出された知財権は参画組織に有利に委譲する。

 この記事を読まれているJAXA内外の方々、皆さんの専門領域と宇宙探査の接点や共通課題を共に見いだして、探査ハブに集い協働しましょう!

 1990年代のこと、欧米露に比べ劣勢な宇宙技術を挽回・克服し超遠距離飛行を実現させるため、日本独自のマイクロ波放電式イオンエンジンを完成させ、これを主推進として駆る「はやぶさ」は世界で初めて地球−小惑星往復探査(2003〜2010年)に成功した。そして「はやぶさ2」(2014年〜)は今この瞬間、宇宙を航海している。よき指導者に巡り会い、有能な同僚の協力を得て、挑戦する組織の指揮のもと、私が体現したイノベーションをJAXA内外に伝える責務を感じている。冒頭で説明した状況は決してJAXAだけの窮地ではなく、日本中でイノベーションができず社会の成長が停滞している。これを打破してお手本となれと、政府から強く要請されている(「科学技術イノベーション総合戦略2014」2014年6月24日閣議決定)。このミッションは非常に難しく険しい事業なのだが、心新たに挑戦者としておじけづくことなく新領域に分け入る意気込みである。

(宇宙探査イノベーションハブ ハブ長 國中 均)


※クロスアポイントメント制度:研究者や技術者が大学、公的研究機関、企業など複数の組織に所属し、各組織における役割に応じて研究、開発、教育に従事することを可能とする制度。給与は勤務割合に応じて各組織が負担するが、医療保険や年金は一つの組織がまとめて対応するなど、研究者や技術者が不利にならないようにしている。