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ISASニュース

「あけぼの」運用終了

No.411(2015年6月)掲載

 磁気圏観測衛星「あけぼの」は、1989年2月22日にM-3SIIロケット4号機で打ち上げられて以来26年間、科学観測を行ってきました。スプートニク1号が世界初の人工衛星となったのが58年前なので、人工衛星の歴史の半分近くの間、観測を継続してきたこととなります。

 「あけぼの」の第一の使命は、地球の極域で起こるオーロラ現象の観測でした。オーロラ発光域が時間とともに拡大する様子を上空から撮影し、また、当初の目標寿命である1年を大きく超える期間、オーロラ現象に関連の深いプラズマ、電場、磁場、波動のデータを蓄積し、オーロラ出現に関連する多くの物理を明らかにしました。しかし運用の年月を重ねるうちに、9種の科学観測機器の中には、観測を停止したり、性能が劣化したりするものが出てきました。性能を維持している観測機器の長所を生かすべく、主な観測対象をオーロラから中低緯度の放射線帯・内部磁気圏へと次第に変えていきました。放射線帯という電子機器には極めて過酷な環境で、衛星の基本的な機能を26年間維持し科学観測を続けたことは、海外も含めてほかに類を見ず、また今後も簡単にはなし得ないであろうと思われます。

 このように頑強な「あけぼの」ですが、近年では太陽電池やバッテリーの劣化が進み、運用に大きな支障を来すほどになってきました。また、打上げ時に約1万kmの高度にあった遠地点が、大気との摩擦のために4000kmまで低下し、日陰(衛星が地球の陰に入り太陽光が当たらない)の割合が増加してきました。軌道上で日陰が起こると、日陰中はもちろん日照中もバッテリーの充電に電力が必要となり、観測機器に使える電力がほとんどなくなってしまいました。ジオスペース探査衛星ERG打上げ後の2017年まで「あけぼの」の観測を続ける計画を立てていました。しかし、現在の衛星の状態では想定している観測ができず科学成果も期待されないと、昨年12月の運用会議で結論し、今年4月末をめどに運用を終了することを決定しました。

 4月23日に停波運用を行いました。「あけぼの」の開発に携わった方々や長年データを解析してきた方々に、管制室で立ち会っていただくことができました。先にS帯送信機を停止しました。S帯の停止は、1997年の電波天文衛星「はるか」打上げ時にM-Vロケット1号機の電波との干渉を避けるために行って以来、18年間実績がありません。本当にコマンドが効くのか緊張しましたが、「あけぼの」はあっさりとコマンドを受け付け、S帯の信号が止まりました。続いて15時59分にU帯送信機停止コマンドを送信し、「あけぼの」からの電波は完全に停止しました。

 「あけぼの」プロジェクト実現に尽力された先達の方々にあらためて深く敬意を表すとともに、長い間運用をご支援くださった皆さまに心よりお礼を申し上げます。

(松岡 彩子)