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ISASニュース

インドネシア・ビアク島での統合的大気観測気球実験
小規模プロジェクト「熱帯対流圏界層における力学・化学過程の解明」

No.409(2015年4月)掲載

 対流圏の大気は主に赤道上空の熱帯対流圏界層を通過して成層圏に流入しますが、インドネシア上空には特に低温の熱帯対流圏界層が位置しており、そこでの脱水過程が成層圏の水蒸気量に大きな影響を及ぼしていると考えられています。また、熱帯対流圏界層を通して成層圏へ流入した大気の循環が地球温暖化の進行に伴って受ける変調の実態は、解明の待たれる重要な課題です。そこで、長年ビアク(Biak)島で観測を行ってきた大気力学グループ(代表者:北海道大学 長谷部文雄 教授)と成層圏大気サンプリンググループ(代表者:東北大学 青木周司 教授)が、成層圏大気組成変動に対する理解をより深めるために、宇宙研が公募する小規模プロジェクトに「熱帯対流圏界層における力学・化学過程の解明」を提案し、このプロジェクトの第1号として採択されました。今回の実験は、インドネシア国立航空宇宙研究所(LAPAN)との共同研究により、力学過程と化学過程を統合的に観測するために、小型のゴム気球を用いて二酸化炭素、水蒸気、オゾン、雲粒子、エアロゾルの濃度測定と上空のエアロゾル採集を行うと同時に、大気採集装置を搭載したポリエチレン気球を4機放球し、熱帯対流圏界層から下部成層圏にかけての8高度の大気試料を採集する計画です。

 約30年ぶりのインドネシアでの大気球実験を着実に実施するため、インドネシア関係機関との事前調整には時間をかけ、同時にJAXA−LAPAN間で技術協定を結んで協力体制を確立しました。2月7日からは日本側実験グループが現地入りして実験準備を進めました。今回の実験では採集した成層圏の大気を確実に回収することが求められるため、実験実施はアメリカ海洋大気庁(NOAA)が提供する気象数値予測データに基づく航跡予測、直前の測風ゾンデの結果および地上気象から総合的に判断しました。2月22日、24日、26日、28日にそれぞれ1機ずつ放球し、設定した高度での成層圏大気採集を行うことができました。採集した成層圏大気の精密な分析は、4月に試料が日本に戻ってからLAPANの研究者も招聘して国内各機関で進められます。世界で初めての力学過程と化学過程の統合的観測により、貴重な知見が得られるものと期待されます。

 今回の実験実施に当たっては、宇宙研の大気球実験グループ、科学推進部、宇宙科学プログラム室の全面的なご支援を頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。また、さまざまな事前調整、放球や回収作業を一緒に行ったLAPAN職員の皆さん、回収船運用に協力していただいたビアク海上警察の皆さんをはじめとする関係機関の方々にお礼申し上げます。

(池田 忠作)

放球直前の大気球(2月28日)

放球直前の大気球(2月28日)