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ISASニュース

「宇宙科学研究所賞」を創設 ー記念すべき第1回は3名の方に授与ー

No.409(2015年4月)掲載

 JAXA宇宙科学・探査プロジェクトは、JAXA内だけでなく大学・研究機関などから多くの研究者・技術者に参加いただき、その協力と支援に支えられています。こうしたプロジェクトの実施に当たり、その成功の鍵となるような顕著な功績や貢献のあった外部機関所属の方は多くおられました。ともすればあまり表に出てこないそのような方々の功績・貢献を大いにたたえるべく、宇宙研は2014年11月に「宇宙科学研究所賞」を創設致しました。

 今年1月から選考を行った結果、記念すべき第1回の宇宙科学研究所賞は、東京大学の土井靖生(どい・やすお)氏、欧州GMV社の山口智宏(やまぐち・ともひろ)氏、東京工業大学の坂本 啓(さかもと・ひらく)氏の3名に決定し、3月12日と26日に相模原キャンパス会議場にて授賞式を開催しました。

 土井靖生氏は現在、東京大学大学院総合文化研究科の助教で、専門は赤外線天体物理学です。今回の受賞は「赤外線天文衛星『あかり』遠赤外線検出器開発、及びそれを用いた高詳細な全天の遠赤外線画像データの作成」によるものです。土井氏は、大学院修了直後から遠赤外線検出器の基礎開発に取り組みました。波長0.1mm程度の遠赤外線は、星・惑星系誕生の過程を知るために鍵となる波長帯です。製作過程を工夫することで世界最大規模の画素数となる検出器の開発に成功し、その検出器は日本初の赤外線天文衛星「あかり」に搭載されました。「あかり」打上げ後は観測天体に応じた衛星姿勢運用や検出器制御の計画立案を行い、1年4ヶ月に及んだ全天のサーベイ観測を成功させました。さらに、観測データの解析においても中心的な役割を果たし、ノイズを含む検出器の出力信号から真の信号を取り出すプログラムを開発し、赤外線の波長帯では世界最高の解像度を持つ全天の詳細な遠赤外線画像を完成させました。完成した画像データは、宇宙研からインターネットを通じて世界に公開され、天文学の広い範囲の研究に大きく貢献すると期待されています。

 2人目の山口智宏氏は現在、欧州GMV社のMission Analysis Engineerであり、専門は宇宙航行力学と宇宙システム工学です。今回の受賞は「小型ソーラー電力セイル実証機IKAROSの軌道ダイナミクス評価・飛行解析」によるものです。山口氏は、IKAROSの開発から打上げ後の運用まで参加し、IKAROSの主な目的である太陽光圧による加速の確認と、ソーラーセイル機の軌道運動の解明、太陽光圧を使った軌道制御の解析と評価を行いました。セイルにあるしわなどの凹凸や場所による光学特性の違いに伴う反射特性の分布といったソーラーセイルの複雑な構造・材料特性と軌道運動との関係を解明し、IKAROSの飛行データとソーラーセイル機の軌道運動を直接的に関係づける手法を考案しました。これによりソーラーセイル機の設計において軌道と姿勢運動と構造・材料特性を結び付けて論じる道が拓け、IKAROSミッションの成功、そしてそれに続く将来の宇宙探査計画への発展応用に大きな貢献をしました。

 坂本 啓氏は現在、東京工業大学大学院理工学研究科機械宇宙システム専攻の准教授で、専門は宇宙航行力学と宇宙システム工学です。今回の受賞は「ソーラーセイルの確実な収納・展開の実現に向けた構造研究」によるものです。坂本氏は、IKAROSミッションにおいて最難関であるセイルの展開に大きく貢献しました。具体的には、従来より厳密なセイルモデルを構築して数値解析を行い、膜面の微小な剛性の変化がセイルの展開挙動に与える影響を示しました。これを地上試験で検証し、安定してセイルを展開するための条件を明らかにし、またセイルの展開途中に膜面が引っ掛かった場合にスラスタを噴射してセイルの展開をサポートするバックアップ制御法も考案しました。これらの研究成果はIKAROSの設計・製造・運用に反映され、IKAROSミッションを成功に導きました。現在はソーラー電力セイルの汎用化を目指して、ブーム(支柱)を用いたセイルの展開方式を提案し、積極的に研究を進めています。

 3名の今後のますますのご活躍を期待します。

(笠原 健司)