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ISASニュース

CIBERによる宇宙赤外線背景放射の「空間的ゆらぎ」の発見

No.405(2014年12月)掲載

 私たちは、米国カリフォルニア工科大学などの研究者らと共同で進めてきたNASAの観測ロケット実験CIBER(サイバー:Cosmic Infrared Background ExpeRiment)により、近赤外線の宇宙背景放射に普通の星や銀河などによる影響では説明できない大きな空間的「ゆらぎ」が存在することを発見しました。この発見について米科学誌『Science』に発表した論文では、「ゆらぎ」を示す未知の放射は、銀河系外からの宇宙赤外線背景放射の明るさのおよそ半分を占めていると結論づけました。

 今回の論文では、銀河同士の衝突や潮汐作用により引き剥がされた古い星々が、銀河の周辺(ハロー)や銀河間空間に大量に浮遊しており、発見した「ゆらぎ」の物理的特徴はそれらの光が視線方向に重なり合うことで説明できるとも主張しています。この科学的解釈によれば、宇宙赤外線背景放射の観測が知られざる銀河間空間の新たな研究手段になるとともに、「隠れたバリオン(※1)」や「隠れた衛星銀河」などの、あるはずなのに見つかっていない物質についての宇宙論的な課題に関わる点で魅力的です。ただし、科学的解釈の最終結論に至るには、今も解析を続けているほかのCIBERデータからの追加情報や、次期ロケット実験CIBER-2ほか、将来ミッションによるさらに詳細な観測データが必要であると考えています。

 今回存在が明らかになった背景放射成分を解明したあかつきには、CIBERの当初からの目標である宇宙初期の星々による背景放射がいよいよ見えてくるはずです。今後も私たちの宇宙背景放射研究にご期待ください。

 CIBERは、衛星プロジェクトだけではカバーし切れない重要な研究を、スピーディーかつタイムリーに行うことを目指して進めてきました。しかし、ふたを開けてみると、観測装置やロケットの技術的問題による打上げ遅延や上空での予期しない大気光や迷光の影響など、なかなかもくろみ通りにはいかないことをあらためて学びました。私だけでなく、CIBERチームの大学院生や若手研究者が汗水垂らして観測装置を仕上げ精魂込めて観測データを解析した結果、今回の重大な科学成果にたどり着いたのです。

 それに関する喜ばしいニュースとしてお伝えしたいのは、CIBERチームがNASAから「Group Achievement Award」という表彰を受けたことです。NASAミッションなどに関して優れた業績を収めたグループに贈られるもので、「優れたチームワークを発揮し4回のロケット実験を成功させ、宇宙に関する新たな知見を得た」というのが今回の表彰理由です。私の大学院生時代からの同期生かつ友人でありCIBER実験の責任者であるカリフォルニア工科大学のJames Bock教授や、私たちの共通の恩師であり宇宙研の観測ロケットを用いた初期の実験から現在のCIBERまで宇宙赤外線背景放射の研究を開拓した松本敏雄JAXA名誉教授ほか、各国の研究機関の科学者、技術者、学生らで結成したチームの全員が表彰の対象です。私にとって、「チーム」として皆さんと一緒に表彰されたことが、この上なくうれしいことです。今後もCIBERのチームスピリットを受け継ぐCIBER-2ほかの計画を進め、宇宙背景放射の謎に挑みます。

(松浦 周二)

天の川を背景にしたCIBER最終実験のロケット打上げ。2013年6月、米国バージニア州NASAワロップス飛行施設にて。

天の川を背景にしたCIBER最終実験のロケット打上げ。2013年6月、米国バージニア州NASAワロップス飛行施設にて。



宇宙赤外線背景放射の「ゆらぎ」の空間パターンの一例

宇宙赤外線背景放射の「ゆらぎ」の空間パターンの一例(※2



※1 バリオン:我々の世界をつくっている「通常の」物質。赤外線などの電磁波で観測できると考えられている。
※2 宇宙赤外線背景放射の「ゆらぎ」の空間パターンの一例:CIBER Imagers(赤外線カメラ)の波長1.1マイクロメートルの画像から星や銀河を取り除き、約0.1度の空間構造が目立つような画像処理を行ったもの。視野は2度四方。(Zemcov et al.、 Science、 346、 pp.732-735 (2014)、 Supplementary Materials より)