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ISASニュース

小惑星探査機「はやぶさ2」打上げ

No.405(2014年12月)掲載

 燃料・酸化剤を充填し全備質量600kgに仕立てられた探査機は、11月13日にロケット結合リングと締結され、保護カバーなどの“Non-Flight Item”をすべて取り外し、インパクタ(衝突装置)の安全ピンも引き抜かれた。とうとう我々の手から離れてしまうという惜別の情にかられながらも、ロケット打上げサービス社へ探査機を引き渡した。クレーンで高々とつり上げられ、まばゆくきらめく「はや2」の勇姿を仰ぎ見た。フェアリングで覆ってしまえば、もはや全貌を見ることはできないのだ。

 射点上空に分厚い氷結層が予測されることから、11月28日に開催された打上げ準備確認会にて、当初設定の11月30日打上げは翌日へ順延と判断された。翌日の天候判断会議でも、秒速20mを超える最大瞬間風速が予見されたので、またもや延期。満を持して三度目の設定は12月3日。逐次更新される天気予報はいずれも、曇天ながら打上げ条件を満足することを指し示した。サンプルコンテナ内を清浄に保つため常時実施していたガスパージを終了するため、12月2日深夜にフェアリングに設けられたマンドアから作業者が体を乗り出して探査機に近寄り、配管を引き抜いた。フェアリング内の暗がりにある「はや2」を、マンドア越しにわずかにのぞき見ることができた。もはやこれが今生の別れ、見納めだ。

 打上げ6分前、とうとう「探査機準備完了」を宣言してしまった。12月3日13時22分04秒(日本時間)、H-IIAロケット26号機は勢いよく上昇していった。総合指令棟の屋内にいる私にも、ロケットの轟音と振動が伝わってきた。これは、宇宙大航海に出帆する「はや2」を祝う銅鑼の響。

 いったん地球周回パーキング軌道を経由し、約100分後1周して日本近傍に再来した際に2段ロケットを再着火し、地球脱出軌道に乗り換えて深宇宙へと投入された(ロングコースト手法)。探査機分離のビデオ画像では、−Z面に取り付けられた5個のターゲットマーカーが視認できた。放出された探査機は、太陽の光の中に消えていった。この後、すぐさま太陽電池パネル展開、2液式スラスタによる太陽捕捉、スロースピン姿勢安定が確立された。その模様は、NASAゴールドストーン追跡局からの受信データで確認された。しばらく遅れてJAXA内之浦追跡局および臼田追跡局にても送受通信がなされ、地上からのコマンドにてスラスタ3軸姿勢安定を経てリアクションホィール3軸姿勢安定を計画通り確保した。サンプラホーン伸展およびイオンエンジンのジンバル固定解除も無事実行され、クリティカルフェーズを難なく突破した。「はや2」は、小気味よい動きを存分に見せつけてくれた。

 これより、新船「はや2」を駆り地球─小惑星往復探査に着手する。

(國中 均)

ロケット結合リング上の「はやぶさ2」。ダイナミックダンパおよび小型副衛星ペイロードのPROCYONとARTSAT2-DESPATCHが見える。

ロケット結合リング上の「はやぶさ2」。ダイナミックダンパおよび小型副衛星ペイロードのPROCYONとARTSAT2-DESPATCHが見える。


小惑星探査機「はやぶさ2」を搭載したH-IIAロケット26号機の打上げ。12月3日13時22分04秒、種子島宇宙センター。右上は「はやぶさ2」の分離。5個のターゲットマーカーが確認できる。

小惑星探査機「はやぶさ2」を搭載したH-IIAロケット26号機の打上げ。12月3日13時22分04秒、種子島宇宙センター。右上は「はやぶさ2」の分離。5個のターゲットマーカーが確認できる。