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ISASニュース

惑星分光観測衛星「ひさき」の初成果
お待たせ! きょくたんの初成果!!

No.403(2014年10月)掲載

 お待たせいたしました。ついに「ひさき」観測の初成果が『サイエンス』誌に掲載されました。初観測の報告からはや1年、夏の相模原キャンパス特別公開でも「あと少しお待ちください」と言うだけで皆さんからのご期待に応えられず、もどかしい思いをしていました。でも、でもですよ、ここに晴れてご報告させていただきます。「ひさき」のマスコット、きょくたんも喜んでおります。

 成果内容は、木星磁気圏のイオプラズマトーラスのスペクトル画像解析の結果です。しかも初観測を報告した直後の本格観測です。覚えていらっしゃいますか、イオプラズマトーラス。木星の衛星イオから噴出する火山性ガスがプラズマ化して木星のまわりのイオ公転軌道上に分布しているリングです。

 イオプラズマトーラスでは、プラズマ化した火山性ガス(硫黄イオンや酸素イオン)が、周囲の電子と衝突して極端紫外光で光ります。核種固有の波長で複数の輝線として光りますが、衝突する電子の温度(エネルギー)によって、光りやすい波長があるのです。つまり、輝線ごとの明るさの違いから、電子の温度が推定できることになります。複数の輝線の明るさを同時に観測することで、発光している物質(イオン)と、発光を引き起こす物質(電子)の両方の物理量を導出できるのです。そして、さらに「ひさき」の観測では、その空間構造も分かります。イオプラズマトーラスの断面を水平方向に三分割するくらいですが、プラズマの移動方向を導出するには十分な分解能です。その結果、高温電子がイオプラズマトーラスの最内側まで侵入していることが明らかとなりました。これは、私たちが是が非でも確証を得たいと考えていた、磁気圏内での外側から内側への高温電子の移動を示す証拠であり、木星放射線帯が維持されるメカニズムの一つです。

 残念ながらこの誌面では説明し切れませんので、今後の『ISASニュース』で詳しく紹介する予定です。解説記事を宇宙研のウェブページにも掲載する予定なので、「ひさき」ページや太陽系科学研究系ページから探してご覧いただければ幸いです。これに続く、さらなる多くの成果報告が準備万端整ったところです。これからも、きょくたんの活躍にご注目ください。

(山ア 敦)

論文のもととなった「ひさき」観測のイオプラズマトーラスの極端紫外スペクトル(左上のイオ画像:(C)NASA/JHU APL/SwRI)

論文のもととなった「ひさき」観測のイオプラズマトーラスの極端紫外スペクトル
(左上のイオ画像:(c)NASA/JHU APL/SwRI)