宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASニュース > 連載の内容 > ISAS事情

ISASニュース

大気球を利用した微小重力実験

No.403(2014年10月)掲載

 前の記事でもお伝えした通り、日本各地で豪雨が降る異常気象の今夏、「大気球を利用した微小重力実験」が行われました。これは高度約40kmから機体を自由落下させ、30秒程度の低重力環境を得るものです。ただ落下させたのでは、風などの外乱や落下に従って濃くなる空気の抵抗により、良い低重力環境は得られません。そこで採用しているのが、ドラッグフリーシステムといい、機体の内側に低重力実験装置を浮かせた状態で保持する仕組みです。2007年から3回実施した3軸のドラッグフリーシステム機体の落下実験では、地上の1万分の1程度の低重力環境が得られました。しかし、このシステムでは内部に搭載できる実験装置の大きさがボーリングの球程度でしかないため、本格的な微小重力実験が行えませんでした。今回のシステムは、鉛直軸方向だけ自由に動けるように機体と実験装置をリニアスライダーで結合した1軸のドラッグフリーシステムです。直径40cm、高さ60cmの実験装置が搭載可能で、この大きさはスウェーデンで行われている小型ロケット微小重力実験の装置と同等で、これだけあればかなりの実験が可能です。

 機体は気球から切り離された後、35秒の落下(ドラッグフリー制御)の後、パラシュートを開いて北海道十勝沖に着水して、無事に回収されました。飛行後回収した加速度計のデータから、30秒弱の間、地上の1000分の1程度の低重力環境が維持されていたことが確認できました。搭載した燃焼実験は残念ながら機体内の水分の結露のため、想定の実験結果とはなりませんでしたが、高速度カメラによる撮像および記録を含めてすべて正常に稼働し、本格的な微小重力がこのシステムで実施可能であることが検証できました。実験の実施に際して吉田哲也室長をはじめとする大気球実験室の方々、回収船など十勝の方々に大変お世話になりました。

(石川 毅彦)

放球台に設置された落下機体(黄色)。上のオレンジ色のものはゴンドラ。

放球台に設置された落下機体(黄色)。上のオレンジ色のものはゴンドラ。

気球からの切り離し直後にゴンドラから撮影した、落下していく機体。

気球からの切り離し直後にゴンドラから撮影した、落下していく機体。