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ISASニュース

遠くて近いマランゴニ対流

No.400(2014年7月)掲載

 国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」でマランゴニ対流実験が開始されてからはや6年が経過し、多くの科学的知見が得られています。定常流から振動流への流れの遷移は無重量環境下でもマランゴニ数という無次元数で整理できること、無重量状態で支配的な表面張力差を駆動力とした独特の流れと地上でよく見られる圧力差や浮力に起因する流れとの類似や相違などが、明らかにされてきています。しかしながら、「マランゴニ対流」は地味で、まだ一般の方々に浸透していないようです。

 マランゴニ対流は、実は身近な現象です。最も有名なのは「ワインの涙」でしょうか。ワインの液面とグラスが接触する付近で液体が壁を上り、やがて滴となってしたたり落ちる現象です。これは接触面付近のアルコール水溶液の濃度差がもたらすマランゴニ対流によるものです。もう一例。コーヒー滴を机にこぼしたときにできる輪染み(コーヒーステイン)は、水分が蒸発する過程で表面にマランゴニ対流が起きて外周部にコーヒーの粒子が集まり乾燥してしまう現象です。工業的には、DNAチップや微細金属配線作製のインクジェット塗布においてムラを発生させるので、マランゴニ対流をいかに制御しながらプロセッシングができるかが品質の鍵となっています。

 このように実は身近なマランゴニ対流を、「きぼう」での実験の成果を通して知ってもらう活動も始めています。この研究の歴史的ひもときから「きぼう」での実験に至る過程、宇宙実験の成果をまとめたレビュー記事が、日本マイクログラビティ応用学会の発行する雑誌『International Journal of Microgravity Science and Application』に掲載されました※。また、この記事をもとにマランゴニ対流実験について易しく解説した冊子も、JAXA有人宇宙ミッション本部によって作製されました(図)。

 今後も続く「きぼう」マランゴニ対流実験。その成果をしっかりと見てもらえるよう奮闘したいと思います。もっと一般の方に近い存在になれるように。

※http://www.jasma.info/journal/から、特別号Vol.31, Supplement 2014の特集「MEIS実験」をフリーダウンロードできます。

(松本 聡)

マランゴニ対流実験の冊子