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ISASニュース

気球到達最高高度記録を更新、高度53.7kmを浮遊

No.393(2013年12月)掲載

9月20日、厚さ2.8μm(1000分の2.8mm)のポリエチレンフィルムでつくられた体積8万立方メートルの超薄膜高高度気球の飛翔性能試験を行いました。2002年に世界最高高度記録を樹立してから11年。5回目の記録更新挑戦です。今回の気球では、頭部のフィルムを二重化したり、保護テープを厚くしたりして、構造を強化しています。また、水平浮遊できるよう排気口を取り付けたり、気球破壊時に大きな穴が開くよう破壊装置を改良したりもしています。さらに、風の条件に左右されず、より確実に放球できるよう、スライダー放球装置とカラー(襟のこと。気球の下の方でガスが入っていない部分が広がらないように巻き付けておき、放球直前に取り外す)を使う新しい放球方法を編み出し、事前の試験でうまく放球できることを確認してきました。気球や搭載機器は去年から用意してあったのですが、気象条件が合わず、1年間この日を待っていたのです。

当日の天気は、薄曇り。幸いにして霧もなく、風もなく、絶好の放球日和でした。作業は順調に進み、気球は風切り音とともに優雅に舞い上がり、静かに雲の中へと消えていきました。

気球は順調に上昇し、搭載カメラ映像の気球も、次第、次第に大きくなっていきます。高度40km。高度50km。切りの良い高さを越えるたび、ついつい手に力がこもります。高度52.9km、53.0km、53.1km。よし、記録更新。安堵とともに、ささやかな拍手が響きました。気球はさらに上昇を続け、高度53.7kmで水平浮遊に入りました。中間圏でその場観測ができる飛翔体の誕生です。写真はそのときのもので、気球がきれいに展開していることが分かります。右の方の構造が排気口で、ここから余分なガスを放出することで気球は破裂することなく、最高高度にとどまりました。今回の水平浮遊時間はたったの12分。惜しまれながら気球破壊コマンドを送信すると、見事な穴が気球に開き、緩やかに海上に降下して実験終了となりました。

(斎藤芳隆)

高度53.7kmで水平浮遊に入った超薄膜高高度気球