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ISASニュース

あきる野実験施設の近況

No.390(2013年9月)掲載

ISASあきる野実験施設では、さまざまな推進系・輸送系の研究や開発が行われています。ここ数年は施設の利用者が急増し、現在では、固体ロケットをはじめ、ハイブリッドロケット、液体ロケット、一液スラスタ、ガススラスタなどの実験が入れ代わり立ち代わり実施されている状況です。また今年に入ってからは、JAXA共通電話サービスとTV会議端末が導入され、これまで以上に業務がやりやすい(実験が中断しやすいともいえますが……)環境が整いました。さて、ここでは、4〜8月に行った液体ロケットの実験を紹介します。

常温で長期間貯蔵が可能な低毒性の液体推進系の研究として、液化亜酸化窒素(一酸化二窒素)とエタノールを推進剤とするエンジンの噴射および燃焼に関する実験を行っています。その一環として、推進剤の噴射や燃焼の様子を視覚的に把握して現象を理解するため、エンジン内部が観察できるよう石英ガラスが取り付けられた燃焼室を複数のカメラで撮影しました。液化亜酸化窒素は、常温では極めて安定な物質ですが(タンク貯蔵状態)、圧力を下げるとガス化しやすい傾向があるので(燃焼室内部への噴射時)、この性質を利用して効率の良いエンジンを設計しようというのが、この研究における特徴の一つです。燃料/酸化剤の衝突パターンや噴射条件などを変え、推進剤の噴射の広がりや燃焼している領域の様子を高速度カメラや光学フィルターを用いて観測しました。本推進系は、長期間の貯蔵が難しい極低温推進剤や有害性のヒドラジンと比べて、取り扱いが容易な点が特徴です。今後は、上記試験の成果を反映した、推力2kNクラスの噴射器と耐熱性のSiC/SiC(炭化ケイ素複合材)燃焼器を組み合わせたエンジン実証試験を計画しています。

あきる野実験施設は自然に囲まれていて和やかな雰囲気ですが、実験では火薬、高圧ガス、危険物などを日常的に扱うので、気が緩むことがないよう安全に気を配って日々作業を行っています。

(八木下 剛)

可視化燃焼器と高速度カメラ(左)と各種カメラで捉えた燃焼室内の様子(右)