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ISASニュース

液体水素の熱流動特性試験

No.389(2013年8月)掲載

能代ロケット実験場における平成25年度の一番手の試験として、第9次液体水素の熱流動特性試験を5月27日から6月10日にかけて実施しました。この試験は、液体水素の熱伝達特性を理解して超電導応用機器の冷却設計への指針を与えることを目的として行ったもので、大学共同利用の一環として京都大学と宇宙科学研究所が共同で実施しました。

この試験が最終的に目指すものは、温室効果ガスの削減への寄与です。温室効果ガス削減に向けては、太陽光や風力、波力といった再生可能エネルギーの利用拡大が喫緊の課題ですが、将来的にはエネルギー媒体である水素をうまく使って、さまざまな再生可能エネルギーを「水素ベースで統合する」ことが望ましいと考えられます。

本研究では、そのような水素社会の実現を目指して、液体水素冷却による高温超電導技術に着目し、研究を進めています(ここで言う「高温」とは、液体ヘリウム温度よりも高い温度のことです)。液体水素による冷却は、液体窒素温度より50度も低い20Kレベルでの冷却が可能なことから、臨界磁場、臨界電流が大きくなり、高温超電導技術のブレークスルーにつながると期待されています。しかしこれまで、その冷却特性データベースはほとんど存在せず、研究は液体水素の熱伝達特性の取得からスタートする必要がありました。私たちは、液体水素に浸して冷却する(浸漬冷却)場合と、流して冷却する(強制冷却)場合のそれぞれについてデータベースをつくることを目指しており、今までに2000回を超えるケースについて試験しました。また今回の試験から、高温超電導線材であるMgB2(二ホウ化マグネシウム)の液体水素冷却における電気的特性が、磁場によってどのように変化するかについても調査を開始しました。

この研究は、宇宙研が今まで培ってきた液体水素取り扱い技術をエネルギーシステムへ展開するというだけでなく、その成果を搭載機器の開発にも生かせることから、意義が深いと考えています。なお、本研究は、平成23年から「新しいエネルギーインフラのための液体水素冷却超電導機器に関する研究」としてJST(科学技術振興機構)から補助金を受けて実施しています。

(成尾芳博)

実験装置への充填作業(右から液体水素容器、液体ヘリウム容器および水素ガス)