宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASニュース > 連載の内容 > ISAS事情

ISASニュース

羽生君、 リチウム発光雲はつくれましたか?

No.389(2013年8月)掲載

7月20日の深夜、観測ロケット2機(S-310-42 / S-520-27)が予定通り打ち上げられました。S-520-27号機にはリチウム放出装置(LES:Lithium EjectionSystem)が3個搭載され、月光によるリチウム発光雲生成実験が行われました。

LESは2007年のS-520-23号機実験以降、日本、米国と実験の機会を得てきたのですが、2010年、2012年に実施した日米双方の観測ロケット実験では作動が芳しくなく、発光雲観測が不調でした。実験後、観測状況など、さまざまな情報をいただいて不具合原因究明に取り組んできました。結局、点火系安全装置の設計と固体リチウムのガス化に必要なテルミット剤(金属と酸化鉄の混合物)の配合比が適切でなかったことが判明しました。その後、基本設計の再検討を実施、見直し後の設計の妥当性を審議いただいて、今回のロケット実験に再登板となったわけです。

LESの第1次地上試験(2012年10月)と第2次地上試験(2013年3月)は、あきる野実験施設の小型真空槽を使って実施しました。第1次地上試験は、主に不具合原因の調査と設計改良方針の妥当性確認を目的に実施しました。この試験では、テルミット剤配合比が不適正で所望の燃焼速度に達していなかったことによりリチウムのガス化に想定以上の時間を要したことや、点火系安全装置が火工品点火後にテルミット剤の着火を阻害する状態になってしまうことを確認しました。併せて見直したテルミット剤配合比が、想定した燃焼速度を有することも確認できました。そして、いよいよ第2次試験に臨みます。もしこの燃焼実験が失敗してデータ取得ができなかったら打上げ予定に間に合わなくなるため、点火前はかなり緊張しました。結果、点火系安全装置の機能が良好であることを確認し、テルミット剤の燃焼速度に関するデータも取得できました。

無事、S-520-27号機は打ち上げられました。LESの成果はあらためてご報告致します。LES改良に当たっては、多くの関係者、有識者の皆さまに貴重な助言をいただきました。ご支援、ご協力くださいましたすべての皆さまにこの場を借りて深く感謝申し上げます。

「○○先生、リチウム発光雲、つくれました」

(羽生宏人)

S-520-27号機に搭載されたLESの外観

S-520-27号機打上げ後、ホッと一息のLES班