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ISASニュース

S-310-42号機・S-520-27号機打上げ実験報告
日本初!2種類の観測ロケットS-310 型とS-520 型の連続打上げ

No.389(2013年8月)掲載

電離圏E 領域とF領域の相互作用に関する総合観測を目的とした、S-310-42 号機とS-520-27号機の打上げ実験は、当初の予定通り7月20日に実施され、成功裏に終了しました。科学観測の成果報告は取得されたデータの解析を待つとして、ここでは主に観測ロケットを2機連続して打ち上げた現場の様子をご紹介します。

前回の連続打上げは、2002年8月3日にまでさかのぼります。今回と同じく電離圏の観測で、スポラディックE層に伴う準周期エコーの構造と成因の解明を目指し、S-310-31号機と同32号機を打ち上げました。このときは同じ型の観測ロケットでしたが、今回はS-310型とS-520型で型が異なります。S-310-42号機で高度約150kmまでの電離圏E領域を、高度約300kmまで到達可能なS-520-27号機で電離圏のF領域を観測し、各領域に存在する擾乱の電磁気的な結び付きを研究するという、それぞれの性能や特性を最大限に生かした野心的な観測です。型の異なるロケットを連続して打ち上げるのは日本初、異なる高度の現象を一つの実験で観測して解明しようとする試みは世界初です。打上げ現場は、やってやろう!と盛り上がります。しかし打上げに至るまでには、いくつもの課題を克服しなければなりませんでした。

その一つは、リチウムの蒸気を放出して発光雲をつくる装置(LES:Lithium Ejection System)の改善に時間を要したことです。LESは日本が独自に開発した装置で、日本の観測ロケットに搭載されるのは今回で3回目です。赤い散乱光を放つ雲が風に乗って形を変えていく様子を地上から観測するのですが、初搭載のS-520-23号機(2007年9月2日打上げ)では、その美しい様子から「宇宙花火」とも呼ばれました。2回目の搭載はS-520-26号機(2012年1月12日打上げ)でしたが、予定通りに動作しなかったと思われる点もあり、改良することになったのです。アメリカの観測ロケットに搭載しての実験や、地上試験を数多く行っているうちに、S-520-28号機が先に打ち上がりました(2012年12月17日打上げ)。さらに、これまで2回の観測実験ではリチウムの雲は太陽の光を散乱して光っていたのですが、今回は(満月に近いとはいえ)月の光を散乱して光らせるという世界初の試みだったのです。計算上では月明かりでも光るはずだと信じていた科学者も、予定の高度できちんとリチウム蒸気を放出するという確信を持っていた技術者も、実際に打上げ実験が終わるまで気が休まらない日々が続きました。

二つ目は、観測ロケットの搭載機器はS-520-26号機から統合型の新型アビオニクスに移行したのですが、新型アビオニクス搭載機体の連続打上げは今回が初めてだったということです。一部の地上装置は以前のものをそのまま使っていることもあり、地上装置とロケット機体の間には中継装置が必要です。内之浦の射場に設置されている中継装置とは別に、海外打上げ用の中継装置が持ち込まれました。また、ロケット点火に関わる安全装置(SAD:Safe Arm Device)が、機体側における手動駆動から地上装置によるリモート駆動になり(新採用)、安全性がさらに向上しました。これら地上装置の設置から接続、そして動作確認が入念に行われました。すべてにおいて2機分の地上装置を準備できるとよいのですが、レーダーやデータを受信するテレメータのアンテナはそうはいきません。1機目の打上げ(S-310-42号機)が終わって2機目用の設定に切り替えるのは、時間との勝負です。慎重かつ正確迅速に切り替える練習が重ねられました。2機分の準備作業が連続して、ときには並行して行われ、射場に機体が搬入されてから12日目の7月19日にすべての準備が整い、打上げリハーサル(電波テスト)を迎えました。

今回の打上げにはJAXAの新人や研修生、そして観測装置をつくった国内外の大学から学生も多く参加しました。小さいとはいえ、本物のロケットです。打上げ当日の、担当した機器が動作するまでのドキドキ感は、カウントダウンとともに高まります。そして7月20日23時00分、S-310-42号機は予定通り打ち上げられ、トリメチルアルミニウム(TMA)の白い発光雲がはっきりと夜空に輝きました。続いて、23時57分にS-520-27号機が打ち上げられました。そして航空機から、月光を受けて赤く輝くリチウムの雲が観測されました。搭載機器がすべて正常に動作しているというデータが、テレメータで送られてきています。数年かけて準備した実験が成功した瞬間でした。

(竹前俊昭)

左:内之浦の地上から撮影されたトリメチルアルミニウム発光
右:JAXA実験用航空機「飛翔」から撮影されたリチウム発光