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ISASニュース

平成25年度第一次気球実験

No.388(2013年7月)掲載

平成25年度第一次気球実験は、5月7日から大樹航空宇宙実験場において実施され、6月18日に終了しました。ご協力いただいた関係者の皆さまに深く感謝致します。

5月15日早朝に、オゾン、風速、気温、気圧の精密観測によって、地表付近から上部成層圏にかけてのオゾン高度分布と大気重力波などによるその微細構造を調べました。これまでは、高度30km以下で非常に高い精度を持つ電気化学式(ECC)オゾンゾンデと、高度30km以上で測定精度が良い光学オゾンゾンデの2種類のオゾン観測器を、大きめの一つの気球につり下げて放球していました。しかし、小さな気球やゴム気球を用いた方が放球時の天候の影響を受けにくく実験機会を得やすいと考え、今回は2つの観測器を別々の気球で打ち上げることにしました。2つの気球が同じ気塊の中を通過するように、まずECCオゾンゾンデを搭載したゴム気球を放球し、50分遅れで光学オゾンゾンデを搭載した薄膜ポリエチレン気球を放球しました。今回の観測では両観測器とも良好に作動し、高度43kmの上部成層圏領域までの観測に成功しました。上部成層圏のオゾンを直接測定できる観測器はほかにはなく、これらの領域のオゾン変動を調べる貴重なデータを得ることができました。

5月25日未明には、皮膜に網をかぶせるという新しい手法を用いたスーパープレッシャー気球の飛翔性能評価を実施しました。ポリエチレン気球皮膜に網をかぶせることにより軽量で高い耐圧性能を実現できることの実証を目的として、長時間成層圏を飛翔できるスーパープレッシャー気球の開発の一環として行われたものです。今回の飛翔試験により、成層圏飛翔時の低温環境において、気球の構成要素である皮膜と網の双方が、科学観測に用いることができる大型の気球に要求される強度を有することが確認できました。今後は、より大型のスーパープレッシャー気球の開発を進めるとともに、昼夜で高度を変化させながら長時間飛翔できるという特徴を生かした超小型タンデム気球システムの科学観測への適用を進めることになります。

一方、気象条件が厳しい大型気球の実験はなかなか実施できなかったのですが、ようやく6月5日未明に「大気球を利用した微小重力実験」の放球作業を始めることができました。ところが、気球を放球する際に気球部と搭載機器部の間の切り離しロープカッターが誤動作しました。安全機構により切り離し直後に浮力を失った気球部は実験場敷地内に着地し、幸い被害はありませんでした。しかし、この不具合に関しての原因究明および対策に時間を要することが分かったため、予定していた大型気球3実験の実施を見送ることとしました。

なお、大型気球の飛翔に適した気象条件の8月下旬までに十分な不具合対策を講じることが困難なため、本年度予定していたすべての大型気球による実験を見送ることとしました。第二次気球実験については、8月中旬より不具合対策を講じた機器を用いた地上検証試験を実施し、9月より小型気球を用いた飛翔実験を実施する予定です。

(吉田哲也)