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ISASニュース

「きぼう」における結晶成長実験「Hicari」開始

No.387(2013年6月)掲載

国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟に搭載された温度勾配炉(GHF)を使用した結晶成長実験「Hicari」が始まりました。

Hicariは対流が抑制される微小重力環境において、JAXAが開発した新しい混晶系結晶成長方法TLZ法(Traveling Liquidus Zone Method)の原理を検証するとともに、組成が均一な大型結晶作製の基礎データを取得することを目的としています。

温度勾配炉のヒータや真空ポンプの不具合のため実験開始が遅れていましたが、2月末から3月初めにかけて、装置の温度調整を兼ねた1回目のSiGe(シリコン・ゲルマニウム)結晶成長実験を実施しました。写真は、温度勾配炉の試料交換装置に取り付けられた実験後のカートリッジです。このカートリッジは、宇宙飛行士によって温度勾配炉から取り外され、地球に帰還するドラゴン補給船運用2号機に搭載されました。ドラゴン補給船は3月末に無事太平洋に着水し、カートリッジは5月1日に筑波宇宙センターに到着しました。

現在、SiGe試料をカートリッジから取り出して、組成分析を行っているところです。作業は順調に進んでおり、分析結果が待ち遠しくてワクワクしています。Hicariでは4回の結晶成長実験を予定しており、今回の実験結果を次回以降の実験条件に反映させて、より高い均一組成結晶の育成、さらに高精度な原理検証を目指します。

Hicariではシリコンとゲルマニウムが1対1に混ざった均一組成のSiGe結晶の製造を目指していますが、宇宙実験は一里塚として、得られた成果を地上での均一組成結晶製造に役立てていきます。SiGeは高速・低消費電力トランジスタ用基板として有望な素材ですが、ほかにも半導体レーザ用基板として有望なInGaAs(インジウム・ガリウム・ヒ素)の製造技術への応用などが考えられます。宇宙実験の成果をもとに、電子素子や半導体レーザの高性能化、低電力化などが可能となり、産業界や社会利用のみならず地球環境保全へも大きく貢献することができれば意義深いことです。

(木下恭一)

温度勾配炉の試料交換装置に取り付けられた実験後のカートリッジ(矢印)