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ISASニュース

再使用観測ロケット技術実証 液体酸素ターボポンプ単体試験

No.387(2013年6月)掲載

再使用観測ロケットは、打ち上げたものが打ち上げた場所に戻ってくる(観測機器を失うことがない)という、従来とはまったく異なる実験環境をユーザーに提供しようとするものである。最短で1日2回の打上げが可能で、現有の観測ロケットS-310型の10分の1の運用コストと、100回再使用が可能なシステムを目指している。現在、本格的な開発に先立ち、リスクの高いシステムレベルの技術課題について解決することを目的とした技術実証プロジェクトを、宇宙研の事業として行っている。

すでに機体システムに関する技術実証はいくつか実施し、その成果は海外の学会からも高い評価を受けているが、エンジンに関する本格的な試験は初めてである。今回試験したのは液体酸素ターボポンプで、宇宙輸送ミッション本部の協力を得て角田宇宙センターに設置した「再使用観測ロケットエンジン試験設備」を用いて、5月15日に第1回目の試験(起動試験)を実施。その後は飛行中に想定される作動領域を網羅する形で試験を繰り返している。供試体の状況は極めて良好で、今日までの総運転時間はフライト12回分に相当する1530秒に達した。新規設計のターボポンプがこれほどまでに長い時間、分解点検をせずに運転できることは珍しく、私が知る限り我が国では初めてのことである。エンジン技術実証チームは角田と宇宙研のメンバーから構成されているが、それぞれが持てる知識と経験、ノウハウを設計段階から遺憾なく注ぎ込んだ結果であり、本部横断的に実施している本技術実証の一つの成果といえる。

本技術実証は、未来の輸送需要に応えるにはコストを2桁以上低減できる輸送系が必要との検討結果に基づき、そのような世界の実現に必要な技術開発を見据えて取り組んでいるもので、サブオービタル飛行(地球周回軌道に至らない放物軌道)による宇宙旅行や無重量実験サービスを最終目標としている海外ベンチャーの活動とは一線を画すものである。今後は6月末まで引き続き液体酸素ターボポンプ単体試験を行い、夏場に液体水素ターボポンプ単体試験を実施、予算を確保できれば、今年度中にエンジン燃焼試験を開始する予定である。

(成尾芳博)

試験後の液体酸素ターボポンプを点検する技術実証チーム員