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ISASニュース

観測ロケットS-520-27号機・S-310-42号機噛合せ

No.387(2013年6月)掲載

大気中にはさまざまな擾乱じょうらんがあります。ここでいう擾乱とは定常状態からの乱れのことで、大きなスケールでは台風、小さなスケールではつむじ風も擾乱の一種といってよいでしょう。そのような擾乱が電離圏と呼ばれる高度100〜300kmの領域にも存在することが知られています。ただし、この領域は大気とともに電離大気(プラズマ)が存在する空間なので、地上に近いところの気象現象とは異なる仕組みで擾乱が発生します。

電離圏E領域(高度約90〜150km)にはQP(準周期的)エコー、F領域(150〜500km)にはMS-TID(中規模伝搬性電離圏擾乱)と呼ばれる擾乱現象が発生することが報告されていましたが(詳細については別稿に譲ります)、2つの擾乱現象は高度や空間スケールが異なることなどの理由から、独立した現象と考えられていました。ところが、最近の研究により興味深い類似点が明らかになり、両者の電磁気的な結合という観点から注目を集め、多くの研究者によって解明が試みられています。

我々は高度約300kmまで到達可能なS-520型ロケットにより電離圏F領域を、高度約150kmまでをカバーするS-310型ロケットによりE領域を観測し、2つの現象間の電磁気的なつながりを探るという観測ロケット実験を、今年夏に行う予定です。S-310型とS-520型の2機のロケットを短時間に連続して打ち上げる実験は日本初、異なる高度の擾乱現象を一つの実験で捉え電磁気的なつながりの解明を目指す実験は世界初です。

これら2機のロケットの噛合せ試験が4月と5月に行われました。まず、4月12日からS-520-27号機の噛合せ試験が実施されました。このロケットには電場計測器、リチウム放出器、電子密度測定器、磁力計など計8個の測定器が搭載されます。試験では、機器間の電磁気的な干渉が発生し、電場や温度の測定に影響を与えることが問題になりました。E領域とF領域の電磁気的結合は科学的に大変興味が持たれる現象なのですが、搭載機器間の予想外の電磁気的結合はお断りです。電磁気的ノイズの原因究明を行い、計装にシールド処理を施したり高周波数成分をカットするための回路を入れてみたりと、干渉の程度を下げるようさまざまな対策を施しましたが、最終的には機器の運用に工夫を凝らすことで切り抜けることにしました。テレメータやタイマーなどの共通計器を統合した新アビオニクスも今回で5台目ということで、組み立てや艤装の作業性も向上したことが感じられました。

5月14日からはS-310-42号機の噛合せ試験が始まりました。このロケットには、中性大気風測定を目的とするトリメチルアルミニウムを放出するための米国製のTMAという装置が、共通計器部の下部に搭載されます。開頭部には機体の振動計測装置のみで観測装置がない、という珍しい構成になっています。TMAは取り扱いに注意を要する機器ですが、米国クレムソン大学の担当者も日本のロケットへの搭載は4回目ということで、要領よく進められました。両機とも小さな問題はあったものの、スケジュール遅延に結び付くような大きな不具合は発生せず、実験班員もホッと一息。

7月には内之浦のKSドームを挟んで左右に据え付けられたランチャーから2機のロケットが打ち上げられることになります。実験結果についての報告をご期待ください。

(阿部琢美)

スピンタイマー試験終了直後のS-520-27号機頭胴部(左)と
振動試験台にセットされたS-310-42号機頭胴部(右)