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ISASニュース

銀河系中心の爆発現象を捉える

No.386(2013年5月)掲載

今、天の川銀河の中心(銀河系中心)の超巨大ブラックホールに地球質量の3倍程度のガス雲が近づいており、数ヶ月後にはブラックホールに最接近します。少なからぬ研究者がガス雲の運命を予測しており、その大まかな共通点は「ブラックホール周辺の環境によってガス雲からの電磁波の放射が強くなる」「ガス雲はブラックホールの引力によって引き延ばされ、その一部がブラックホールに落ち込む」というものです。一方、ブラックホールに落ち込んだガスはどうなるのか、ブラックホール周囲の降着円盤は安定でいられるのか、などブラックホールごく近傍で起こる現象の予測はあまり出ていません。X線天文衛星の観測から、銀河系中心は300年ほど前は爆発的に明るかったという報告もあり、もしかしたら数百年に一度の大イベントを観測できるかもしれません。

私たちは、電波望遠鏡を運用する研究機関と宇宙研をつないだ大学連携VLBIネットワークによる銀河系中心のモニタ観測を2月に開始しました。主要な参加機関は茨城大学(国立天文台32m望遠鏡)、岐阜大学(11m望遠鏡)、筑波大学(国土地理院32m望遠鏡)、国立天文台水沢(10m望遠鏡)、情報通信研究機構(11m望遠鏡)、そして宇宙研です。相模原キャンパスにはパソコンによるVLBI自動解析処理システムを構築し、各望遠鏡からインターネット経由で送られてくる膨大なデータを準実時間解析し、その電波強度を監視しています。 今のところ兆候は捉えられていませんが、そのことをアストロノマーズ・テレグラムに流したところ、海外の研究者から「ガス雲のブラックホール最接近時期が遅れるという予想が出たぞ、それまで頑張って続けるんだ!」と情報提供が。世界中の天文学者がこの現象に注目していることをうかがわせるエピソードです。

銀河系中心は、銀河の中心に潜む巨大ブラックホールの中で、その見かけの大きさ(ブラックホール事象の地平線)が最も大きく見える天体です。将来、非常に高い解像度でブラックホールや降着円盤の直接撮像を行う電波干渉計観測計画へと発展できれば面白かろうと、捕らぬたぬきの皮算用よろしく、今からわくわくしています。

(朝木義晴)

計算機シミュレーションによるガス雲の運動の予測
白は銀河系中心ブラックホール、オレンジはガス雲を表し、交差法(右目で左の画像を、左目で右の画像を見る)で立体視できる。(シミュレーション:斎藤貴之/東京工業大学、可視化:武田隆顕/ヴェイサエンターテイメント株式会社)