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ISASニュース

「ひてん」月到達20周年を祝って

No.386(2013年5月)掲載

「ひてん」(MUSES-A)が1993年4月11日に月面に到達して20年になることを祝い、4月14日(日)に記念講演会と懇親会が開催された。 「ひてん」は、1990年1月24日にM-3SIIロケット5号機で打ち上げられた工学実験衛星である。1992年に打ち上げられた日米共同の磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」に採用された二重月スウィングバイ軌道に関わる航法と誘導技術の実証を目的とし、電波天文衛星「はるか」(MUSES-B)、小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)へとつながる、世界を切り拓く工学技術を培い発信する先駆けとなった。期せずして、この3機の名前は「は」行から始まる。「ひてん」は、子衛星「はごろも」を月を回る軌道に乗せた後、自身も月周回軌道に乗った。1990年代前半にして、我が国、宇宙研は2機の月周回機を実現させることとなった記念碑的な存在である。

記念講演会では、上杉邦憲先生と私が、思い出をつづりつつ、その挑戦の意義と継承した後続のミッションについて紹介し、懐かしい方々が大勢集まった楽しい懇親会へと続いた。おそらくは当時もよく知られていなかった打上げ時のエマスト(緊急停止)騒ぎ、新設20mアンテナでのロックオフ、打上げ直後の突貫での代替計画の策定にまつわる話、打上げわずか数ヶ月前に採用された世界初のエアロブレーキ実験に臨んだ経緯、当時の世界から見た反響など、思い出でありながらも、いまさらと感じさせるような話題が連なる、有意義な会であった。「ひてん」のエアロブレーキ実験に続いて、NASAは金星周回機のマジェランでエアロブレーキ運用を行い、それらは数々の火星探査機でも採用されていくことにつながっている。

 この会は、「ひてん」から「GEOTAIL」、「のぞみ」、そして「はやぶさ」へとつながる軌道設計チームにとってかけがえのない存在だった、木村雅文さんをしのぶ会ともなり、はるばる福山よりご両親も参加された。宇宙研が、1985年のハレー彗星探査から始まり、月惑星探査へと歩み出したころに思いをはせることができた。

「かのひてん、機転がきいて、秘伝たる」 

(川口淳一郎)

記念講演会の様子