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ISASニュース

筑波宇宙センターにおける回転投てき試験

No.384(2013年3月)掲載

月惑星表面探査ミッションにおいて、サンプル採取やカメラ観測は最も重要な技術の一つである。従来より使用されているローバでは、遠距離・多地点でこれらの作業の実施が可能だが、非常に長い移動時間と大きな消費エネルギーを要し、信頼性も高いとはいえない。一方、着陸機に取り付けられた従来型のマニピュレータは、短時間での作業が可能だが、最大到達距離は数m程度である。また、ローバや宇宙飛行士では、縦孔や中央丘上部など地形が厳しく危険な場所へ到達することは困難である。つまり、到達距離が長く、短時間で作業を実施でき、かつ探査領域の空白を埋められるミッションツールの開発は重要であり、世界的にもいまだ有効手段がないため、この開発を進める意義は大きい。

そこで、回転投てき型マニピュレータを物体搬送に用いることが産業技術総合研究所から提案され、その実証試験を共同研 究として行った。試験は筑波宇宙センター総合開発推進棟横の屋外スペースにおいて実施し、遠距離かつ短時間での投てき の実現性確認と、その繰り返し精度を評価した。また、回転投てき時に発生する振動を計測し、投てき動作が着陸機やほかのシステムへ与える影響を調査した。合計32回の投てきを行い、現状実現可能な最大投てき距離18m(月面で108mの投てき 距離に相当)での位置決め誤差の評価を行うことができた。その結果として、解析的に計算される投てき距離に対して2%まで誤差を縮めることができたが、大気の影響でこれ以上精度を高めることは困難であると分かった。主な投てき誤差要因は、被投てき物のリリースのタイミング(投てき位置・方向)であることを確認し、今後、このタイミングの調整を自動化しなければならない。このタイミングが決定されれば、同じパラメータでの繰り返し投てき精度は1%以下と非常に高いことが分かった。

(大槻真嗣)

回転投てき型マニピュレータ