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ISASニュース

ASTRO-Hシステム試験の状況

No.383(2013年2月)掲載

ASTRO-Hは軌道上で全長14mにも及ぶ巨大なX線天文衛星です。科学衛星は通常、相模原キャンパスで組立て、試験を行うのですが、相模原の既存設備では高さが足りず、ASTRO-Hの組立てすらかないません。そこで、ASTRO-Hでは組立て、衛星全機を使ったシステム試験のほぼすべてを筑波宇宙センターの総合環境試験棟(通称SITE)で実施しています。プロトフライトモデル(PFM)構体を用いた衛星のシステム試験は昨年4月ころから準備が始まり、これまで熱変形試験、熱試験モデル(TTM)を用いた熱平衡試験を終えました。

ASTRO-Hは主要検出器である軟X線分光検出器(SXS)の心臓部のセンサを50mKまで冷却するために、断熱消磁冷凍機と液体ヘリウム、5式の機械式冷凍機、20本以上のヒートパイプ、2枚の大きなラジエータを搭載しています。また、伸展式の光学ベンチ(伸展長6m)には焦点距離12mもの望遠鏡を搭載しているため、指向精度要求も高く、軌道上の熱変形を抑えるため低熱ゆがみ設計が要求されています。極低温部と高発熱機器を搭載しつつ、低熱ゆがみを達成する必要があり、衛星の熱設計には解くべき課題がたくさんありました。

熱設計を検証するため、TTM試験として13mφスペースチャンバーを用いたソーラー光照射試験を行いました。写真はソーラー光の照射チェックをしている様子です。手前に写っている人と比べるとチャンバー、衛星の大きさが分かると思います。13mφチャンバーをもってしてもそのソーラー光照射範囲にはASTRO-Hの衛星構体がすべて入り切らないため、TTM試験は望遠鏡周辺部分と、その他の衛星システムの2回に分けて実施しました。あいにくASTRO-Hの試験の直後に別の衛星の熱試験が計画されていたため、二つのTTM試験は準備、試験実施、撤収を並行して実施し、8月、9月の2ヶ月連続で10昼夜にわたる連続試験という極めて厳しいスケジュールとなりました。昼夜の当番に就いていただいた皆さま、大変お疲れさまでした。

現在は微小擾乱試験の準備をしており、微小擾乱試験、システム機械試験モデル(MTM)試験を終えて、ようやく衛星システムの熱/構造の成立性を確認することができます。そして、これら一連のシステム試験を終えると、その後は一次噛合せ試験、総合試験とフライトモデル(FM)機器を用いた試験に移行します。 

(夏苅 権)

衛星システム試験のひとこま。13mφチャンバーでソーラー光照射チェックを行っているところ。チャンバー内壁に映ったシルエットを見ると、6mφの光束では望遠鏡がはみ出ているのが分かる。