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ISASニュース

「あかり」による大マゼラン雲の赤外線天体カタログ公開

No.383(2013年2月)掲載

大マゼラン雲は、我々の銀河系のお伴の小さな若い銀河です。南天にあるため残念ながら日本からは見えませんが、1987年に出現した超新星のことを覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。大マゼラン雲は、約16万光年の距離にあり、我々から見ると銀河をほぼ真上から俯瞰することができるため、一つの銀河の中で星の誕生や進化などの営みがどのように行われているかを研究するには、格好の天体です。

2006年2月に打ち上げられた日本初の赤外線天文衛星「あかり」は、全天をくまなく観測する「全天サーベイ」と並行して、大マゼラン雲領域の集中的な観測を行いました。この大マゼラン雲サーベイプロジェクトの集大成ともいうべき、赤外線天体カタログとスペクトルデータが、相次いで世界中の研究者に公開されました。

「あかり」は、近・中間赤外線カメラを用いて、5つの赤外線波長(3、7、11、15、24マイクロメートル)で、大マゼラン雲の約10平方度(満月およそ50個分)にも及ぶ領域を観測しましたが、そのデータから入念に測定された66万286天体の位置や明るさをまとめたのが、今回公開される天体カタログです。そのうち1757天体については、波長2〜5マイクロメートルの詳細な赤外線スペクトルも公開されました。点光源カタログは世界最大規模、またスペクトルカタログは、この波長では世界初のものです。データの解析は、宇宙研と東京大学を中心とし、東北大学、国立天文台、神戸大学、名古屋大学、ソウル大学などから成る研究チームによって行われました。

「あかり」のデータは、天体中の分子ガスや氷などの固体微粒子に関する情報を我々に教えてくれます。すでにこのカタログをもとにして、生まれたての星のまわりに存在する氷の性質や、生まれたての星の分類、年老いた星から放出された物質の性質や量を探るなどの研究が進められています。今後「あかり」のカタログがより広く利用され、宇宙の物質進化という重要な天文学的テーマの解明に貢献すると期待されます。

(山村一誠)

大マゼラン雲内の星形成領域N48付近にある星のスペクトルの例。
生まれたての若い星(A)では、低温のガスとちりの雲に含まれる水(H2O)や二酸化炭素(CO2)の氷のスペクトルが観測される。年老いた星(B、C)では表面のガスに、水や一酸化炭素(CO)、あるいはアセチレン(C2H2)やシアン化水素(HCN)の分子が含まれることが分かる。

「あかり」近・中間赤外線カメラによる大マゼラン雲サーベイ領域全体の画像。
3、7、15マイクロメートルで得られたデータをそれぞれ青、緑、赤に割り当てて疑似カラー画像を合成している。中央左側の明るい部分が現在活発に星形成活動を行っている領域。画面左下のぼんやり青くなっているところは、星が密集しているバーと呼ばれる領域である。