宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASニュース > 連載の内容 > ISAS事情

ISASニュース

無重力を利用して液滴群の燃焼メカニズム解明に迫る

No.382(2013年1月)掲載

国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」での宇宙実験に向けて準備が進められているGroup Combustion実験についてご紹介します。これまでに「きぼう」では流体物理、結晶成長などの分野におけるさまざまな実験が行われていますが、Group Combustion実験は、「きぼう」で行われる初めての燃焼科学分野の実験となります。

この実験では、直径1mm程度の液体燃料の滴(液滴)を2次元平面上の規定された(碁盤の目のように張り巡らした糸の交点)位置に生成・配置し、無重力下でその液滴群を火炎が燃え広がる様子を、詳しく調べます。エンジンなどでは液体燃料を微粒化し、非常に小さな液滴の状態で燃焼させる、噴霧燃焼と呼ばれる方式が広く用いられています。液滴径は数十〜数百μmと小さい上、燃焼時間も短く、噴霧燃焼の精緻な実験・観察を行うには空間および時間スケールが非常に小さいのが問題となります。空間スケールを拡大するために直径1mm程度の液滴で実験を行うと、地上では寸法の3乗に比例して大きくなる自然対流の影響が強くなり、実際の現象と比較することができなくなってしまいます。

無重力下では液滴直径を大きくしても自然対流が抑制されるため、元の現象と相似則を保つことができ、高精度な観察・実験を行うことが可能になります。実験では、まず液滴間の燃え広がり限界距離およびその方向依存性を、比較的少数の液滴群により明らかにします。次にその結果を反映した燃え広がりモデルを、100個以上の液滴をランダムに分散した液滴群の燃焼により検証します。これらにより、液滴群の燃え広がりメカニズムの解明が進むとともに、噴霧燃焼に関する数値シミュレーションの高度化が期待されます。

現在は、実験に使用する装置の詳細設計およびエンジニアリングモデルによる各種の試験を実施中です。今年度内に詳細設計審査などを行った後、いよいよ来年度は実際に打ち上げるプロトフライトモデルの製作に着手する予定です。現在のところ、「きぼう」での宇宙実験は2014年度となる予定です。無重力での美しい炎を見るのが今から楽しみです!

(菊池政雄)

航空機実験で観察された、無重力下で液滴群を燃え広がる火炎の様子(火炎近傍で発光しているのは液滴群を支持するためのSiCファイバー格子)。