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ISASニュース

観測ロケットS-520-28号機の打上げ成功

No.382(2013年1月)掲載

微小重力環境利用実験を目的とした観測ロケットS-520-28号機が2012年12月17日16時に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。ロケットの飛翔および搭載機器の動作は正常で、283秒に最高高度312kmに達した後、内之浦南東海上に落下して実験が計画通り終了しました。その弾道飛行中に約7分間の微小重力環境が得られました。

本実験では、微小重力環境を利用して結晶化の最初の段階である核形成に関する以下の二つの実験を実施しました。(1)宇宙ダストの核形成再現実験(研究責任者[PI]:東北大学 木村勇気助教)。宇宙空間を模した3つの小型チャンバー内でそれぞれ鉄と酸化タングステンの蒸気を噴出し、そこからナノサイズの固体微粒子が形成される過程を2波長干渉計などにより測定しました。核生成理論を用いて宇宙ダストの種類、数密度、サイズを推定する際に最も大きな不定性を与えている吸着係数と表面自由エネルギーの二つの物理定数を精度よく決定することを目指します。(2)炭酸カルシウム結晶の均質核形成メカニズムの研究(PI:東北大学塚本勝男教授)。炭酸イオンとカルシウムイオンを含む11種類の異なる濃度の水溶液から生成した結晶核による光散乱強度と溶液インピーダンスの連続測定を行うことで、広範囲な濃度範囲での核形成メカニズムを決定します。この実験は、空気中の二酸化炭素を削減するため地中に炭酸カルシウム結晶として効率よく固定・貯留する技術に関する研究につなげていきます。

今回実施されたこれらの実験は、宇宙環境利用科学委員会が支援するワーキンググループ(WG)・研究チーム(RT)の活動の一環として計画、推進され、研究メンバーは東北大学、JAXA、そしてほかの研究機関や大学から参加しています。

なお、関係者各位のご尽力に加え長坪観音様の霊験もあってか、打上げ当日の天候にも恵まれてフライトオペレーションが無事終了しました。皆さまに深く感謝致します。

(稲富裕光)

宇宙ダスト実験で得られた鉄ナノ粒子生成中の2波長干渉像の例
(a)“その場”観察したオリジナル画像
(b,c)画像処理により分離した2つの波長での干渉縞。干渉縞変化の屈折率依存性は波長により異なるため、bとcから温度と濃度の分布を同時に求めることができる。スケールバーは2mm。