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ISASニュース

LES真空地上燃焼試験

No.381(2012年12月)掲載

10月29日から11月2日にわたって宇宙研あきる野実験施設で第1次LES(Lithium Ejection System、リチウム噴射装置)真空地上燃焼試験を実施しました。LESについては、今年の1月に打ち上げられた観測ロケットS-520-26号機の観測実験において動作が芳しくなかったため原因を探っています。飛翔環境から推測される状況としては、ロケット機体のスピンや雰囲気温度(本体温度)、真空などいくつかの影響が考えられます。これまでにスピンレートや温度をパラメータとした地上試験をいくつか実施してきました。

あきる野実験施設には、内部の高さが人の背丈ほどの小型真空槽があります。通常はロケット燃焼実験で使っているのですが、今回はLES用のスタンドをこしらえて、初めてLES燃焼実験に使うこととなりました。といっても、リチウムを盛大に噴射してしまうと、よからぬことが起きそうです。本来、システム試験として作動特性を把握するならリチウムを入れて点火させなければなりません。しかし今回は、予想されるよからぬ事態を避ける観点から、リチウム抜きで内部の熱源となるテルミットを評価対象に燃焼試験をすることにしました。この試験に先立って、8月下旬に小規模のテルミット真空燃焼実験をコツコツとやっていました。このサブサイズデータを踏まえ、本試験はLESにフル充填したテルミットの燃焼速度特性を把握することが狙いです。写真は実験参加者とスタンドの様子です。LESの側面には40本の熱電対が取り付けられています。これらは、内部のテルミット燃焼波面の伝播を壁面の昇温時刻によって解析するために設置されています。実験は計画通り実施し、予定していたすべてのデータ取得に成功しました。

それにしても、あきる野実験施設常駐の藤原靖史さんのクレーンさばきは見事です。実験中、小型真空槽の天蓋部分を何度も開け閉めするのですが、小型といっても何百kgもあるので、不慣れな操作者では移動中に揺れるし、狙った位置に収めるのも大変です。しかし藤原さんがクレーンを扱うと、重量物は微動だにせず、狙った位置にピタリと決まります。それなのに、ご本人は車の運転が苦手というのですから、世の中不思議なものです。

(羽生宏人)

第1次LES真空地上燃焼試験の試験スタンドの様子
(赤いヘルメットがベテラン藤原さん)