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ISASニュース

平成24年度第二次気球実験

No.380(2012年11月)掲載

平成24年度第二次気球実験は、7月30日から連携協力拠点大樹航空宇宙実験場において実施されました。例年はお盆明けから実験を始めるのですが、近年高層風が不安定であり、飛翔機会が限られているため、実験期間を長く取って臨むこととしたのでした。

しかし、今夏の高層風、特にジェット気流(偏西風)の不安定さは我々の予想をはるかに超えるものでした。8月上旬はジェット気流の主流が北海道上空で大きく蛇行し、風速は速いものの風向が定まらず、8月下旬から9月はジェット気流がアジア大陸東岸に沿って北上し、主流が日本の北方を流れる状況でした。このため、ジェット気流南側の渦状の風の弱い領域に北海道が入り、ジェット気流の方向が大きく乱れることになりました。また、ジェット気流がやや南下すると、北東にジェット気流が吹くことになりました。

大樹航空宇宙実験場から放球される気球は、ジェット気流により実験場東方100〜150kmの海上まで東進し、その後高度30km以上まで上昇してゆっくりと数時間かけて十勝沿岸まで戻ってくる、いわゆる「ブーメラン飛翔」を行います。ジェット気流によって東進している最中に南北に大きくブレてしまうと、実験終了後に気球や搭載機器の回収が困難な地域を飛翔することとなり、安全な気球飛翔運用ができません。真西から真東に安定して吹くジェット気流は、日本での気球実験実施における要の一つなのです。

平成24年度第二次気球実験では、「気球搭載望遠鏡による惑星大気観測」「大気球を利用した微小重力実験(燃焼実験)」「成層圏オゾン・大気重力波・二酸化窒素の観測」そして「超薄膜高高度気球飛翔性能試験」の4実験が計画されていました。すべての実験準備は着々と整ったのですが、ジェット気流の状態がどうにも放球を許してくれません。そうこうしているうちに、高度30km以上の風の季節変化によって大型気球の飛翔実施が困難になり、9月3日に前者2実験の実施見送りを決定しました。そして9月14日には、9月22日までの実験期間内にジェット気流の状況が改善する見込みのないことから、残念ながらすべての実験の実施見送りを決定することとなりました。

来年度も5〜6月と8〜9月に大樹航空宇宙実験場で大気球実験を実施する予定です。来年はぜひ「普通の」ジェット気流になってほしいと、シーズンオフの今でも時々ジェット気流の状態をチェックしているところです。

本稿を準備していた10月20日に、日本の大気球実験を長い間リードしてこられた山上隆正先生のご逝去の報に接することとなりました。山上先生は1971年に東京大学宇宙航空研究所気球工学部門にご着任以来、一貫して日本の気球システムの研究開発と、気球による科学実験の運営、プロモーションを続けてこられ、日本における気球工学の発展と気球による科学観測の進化に大きく貢献されてきました。北海道大樹町での大気球実験の開始に道を拓かれたのも山上先生のアイデアでした。山上先生のご冥福を心よりお祈り致します。

(吉田哲也)