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ISASニュース

イプシロンロケット、 伸展ノズル伸展試験

No.380(2012年11月)掲載

毎度おなじみの感が出てきたイプシロン開発試験です。今号では、9〜10月に構造棟で行われた2段・3段モータ伸展ノズルの伸展試験を紹介します。

伸展ノズルの説明をする前に、まずノズルの性能について簡単に説明します。一般的にロケットのノズルは、根元から出口まで徐々に断面積が大きくなる形状をしています。この根元と出口の断面積の比率を「開口比」と呼びます。高度の高い(空気の薄い)ところで燃焼させる場合、この開口比が大きくなるほど燃焼ガスの噴射速度が大きくなってモータの燃費が良くなります(専門用語でいうと、比推力Ispが向上します)。一方、開口比を大きくしたければ、ノズルを長くしなければならないので、使う前は効率よくロケットの中に収納し、使うときに伸ばす「伸展ノズル」のアイデアが登場します。イプシロンで使う伸展ノズルは、M-Xロケットの3段モータとキックモータで開発されたものを活用しています。ノズル本体は固定側、伸展側の2つに分かれており、使用する前は固定側の外側を囲むように伸展側が縮んだ状態になっています。ノズル内部には、十数本のGFRP製中空丸棒をらせん状に配した軽量ばね機構が仕込まれており、伸展側ノズルを固定しているベルト状の「マルマンバンド」の拘束を解除することで、ノズルが伸展する仕組みです。

アイデアは昔から多数ありますが、フライトに成功した例は少なく、さらにFRPばねを用いた軽量機構で実現した例としては稀有であり、我が国の固体ロケットシステム技術の結晶の一つだと筆者は考えています。

試験形態は、ノズルを逆さまに設置し、天井クレーンからゴムで伸展側ノズルをつるして自重分をキャンセルさせ、飛翔時の無重力状態を模擬します。さらに、第3段はノズル伸展時にスピンしているので、構造棟のスピンテーブル上に設置し、1Hzで回転させながら伸展させます。各段3回ずつ実施した試験は、すべて正常に伸展し、画像をはじめとした伸展中の各種データも無事取得して終了しました。写真は2段モータ伸展試験の様子です。これからも開発試験はまだまだ続きますので、引き続きご支援のほどよろしくお願い致します。

(宇井恭一)

2段モータ伸展ノズル伸展試験の様子(左:伸展前、右:伸展後)