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ISASニュース

IKAROS 復活

No.379(2012年10月)掲載

小型ソーラー電力セイル実証機IKAROSは2012年1月6日に冬眠モード(機器シャットダウン)に移行し、通信ができない状況が続いていましたが、9月6日に電波を捕捉することに成功しました。その後、ビーコン運用にて冬眠明けのIKAROSの状態を把握し、ほぼ正常であることを確認しました。

もともとIKAROSは2010年末までの運用を想定していましたが、さらなる成果を求め2011年以降もエキストラ運用を継続しています。IKAROSの姿勢やスピンレートを大きく変更し、ソーラーセイルの膜面形状や運動がどのように変化するか理解するという追加ミッションも行い、2011年10月18日には逆スピンに移行するという離れ業を見事やり遂げました。

その後、推進薬枯渇の兆候が見えたため、制御を行わずフリーに運動させてソーラーセイルの挙動を把握する、という方針に切り替えました。その結果、太陽角が次第に大きくなり、発電量が低下して冬眠モードに至りました。もちろんこれは想定内で、再びIKAROSが太陽の方を向けば復旧すると見込んでいました。ガス漏れがきっかけで姿勢が乱れて通信不能になった小惑星探査機「はやぶさ」が一定の期間を経て見つかった状況と少し似ています。

ところで、IKAROSは太陽の光を受けて姿勢や軌道が変化します。これがまさにソーラーセイルたるゆえんですが、いったん見失うと、姿勢・軌道がどのように変化するかを予測できなければIKAROSを見つけることができません。これまでの運用実績により、IKAROSの挙動をある程度は予測することができますが、長期間の予測は未知の領域となります。さらに、臼田のアンテナで探せる範囲は非常に狭く(0.01度オーダー)、わずかな誤差でもIKAROSを捉えることができなくなります。それならば、アンテナを予測値周辺で振って探したいのですが、運用日数(運用費)が増えます。すでにフルサクセスを達成したIKAROSの予算は非常に少なく、2週間に1回程度の運用がやっとです。「はやぶさ」の探査では、軌道変化を考慮する必要はなく、ほぼ毎日運用できたので、それと比べてもとても厳しい条件であることが分かると思います。

探索中に得られるのは、この方向には電波が見当たらないという情報のみです。アンテナの向きをどのように修正すればよいかを知るすべもありません。何ヶ月にもわたって応答がないと、さすがに精神的にこたえます。もしかしたら、まだ冬眠中かも、あるいは故障してしまったのかも……。そんなときにIKAROSが見つかったのです。

IKAROSが見つかったということは、姿勢・軌道を長期的に精度よく予測できるようになったことを意味します。実は、探索運用自体が一つのミッションだったのです。IKAROSはそう遠くないうちに再び冬眠モードに入るかもしれません。しかし、次はもっと確実に見つけられるでしょう。今回の探索の成功により、技術的にはIKAROSをずっと運用できる見通しがついたといえます(きちんと意義を見つけて運用延長を認めてもらう必要がありますが……)。世界初の宇宙ヨットの冒険を果てしなく続けていきたいという願いを込めて、「Bon Voyage!(良い旅を!)」。

(森 治)