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ISASニュース

結晶成長の様子をリアルタイムで追う

No.379(2012年10月)掲載

現在、国際宇宙ステーションで実施中のNanoStep実験についてご紹介します。宇宙ステーション補給機「こうのとり」3号機(HTV3)で今年7月に打ち上げられた実験機器を星出彰彦宇宙飛行士に取り付けてもらい、その後は地上からの遠隔操作ですべての実験を行っています。

無重力では密度差・温度差による対流がないので、分子の拡散が成長の律速となり分子がゆっくりと結晶に取り込まれて品質の良い結晶ができる、とこれまで考えられていました。1990年代以降、多くのタンパク質結晶生成の宇宙実験が行われ、確かに実際に品質の良い結晶も得られてきています。結晶を持ち帰り、それをX線構造解析にかけることで、タンパク質分子の詳細な立体構造が判明し、例えば病気の原因となるタンパク質の阻害剤の開発を行うなどの応用につながるのです。しかし、これまでの実験はできた結晶を持ち帰り、構造解析を行うことが目的だったため、実際にタンパク質の結晶成長速度をきちんと計測した宇宙実験はありませんでした。代表研究者の東北大学・塚本勝男教授らが2007年に実施したロシアの回収衛星を用いた実験では、予想に反して、無重力では成長速度が地上より速い場合もあるという結果が得られたのです。NanoStep実験は、この回収衛星実験の結果をより詳細に、リアルタイムで調べることを目的としています。

より詳細に結晶成長速度を調べる方法として、干渉計を使います。光の干渉を利用して、結晶表面に白黒のしまを出すように調整します。結晶の成長に伴い、光源から結晶表面までの光学距離が変わるため、しまが移動し、その移動距離から結晶成長速度を算出するのです。1つのしまが次のしまの位置まで移動すると、約200nm成長したことになります。実験中、簡易計測として大画面に映した結晶表面上のしまの移動距離を定規で測っていたことから、「定規でナノメートルを計測……」と塚本教授がつぶやいておられて、みんなで大笑いしました。

NanoStep実験は3つの溶液濃度で実験を行う予定で、現在2つ目の溶液での計測を開始するところです。面白い結果が得られそうで、楽しみです。

(吉崎 泉)

タンパク質結晶表面の干渉像。
結晶の大きさは約500μm。