宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASニュース > 連載の内容 > ISAS事情

ISASニュース

イプシロンロケット2号機開発

No.379(2012年10月)掲載

イプシロンロケットのイメージは、安い、早い、便利。そのため、開発前に行われた利用調査の結果を踏まえて、機体を「基本形態」と「オプション形態」の2種類に絞り、標準化して生産効率を高める方針です。ところが、開発を始めてちょうど2年、初号機の設計が決定すると同時に、早くも2号機の仕様を変更せざるを得なくなりました。

イプシロン2号機で打ち上げられるERG衛星は、地球近傍のジオスペースと呼ばれる領域において、人工衛星の故障や宇宙飛行士の放射線被曝の原因ともなる放射線帯(ヴァン・アレン帯)の高エネルギー粒子の加速過程および宇宙嵐のダイナミクスを直接観測によって明らかにする小型科学衛星です。放射線帯の空間構造は、太陽活動とともに変化することが知られています。もともとの軌道計画では、当初打上げが予定されていた2014年に、ERG衛星が放射線帯の中心部を長期間観測できるはずでした。しかしながら、衛星計画の遅れによって打上げが2015年になることが決定したため、観測すべき領域が地球から遠ざかる見通しです。そのため、イプシロン2号機の打上げ能力を向上させて、より高い軌道に打ち上げなければなりません。

ということで、イプシロンロケットは2013年夏にSPRINT-A衛星を打ち上げる1号機に向けて一通り開発を完了しますが、さらに2015年にERG衛星を打ち上げるため、第3段を軽量化して打上げ能力を向上する「2号機開発」が追加されることになったのです。

ところで現在、さらなるコストの低減と能力の向上を目指す次世代型イプシロンの実現に向けて先進的な要素技術の研究が進められています。それらの中で実用レベルに達しているものについては、2号機開発で先取りして飛行実証する方針です。この“チャンス”を有効に活用して前倒しで先進技術の飛行実証ができれば、次世代型イプシロンの開発をより確実に進めることができるでしょう。ERG衛星とさらなるWin-Winの関係を築けるというわけです。

イプシロンロケットが21世紀の宇宙開発で活躍するためには、高い目標を掲げて自律的に技術とサービスの基礎を鍛え続け、常に世界のトップレベルを保ち続けることが重要です。いつも“うるさい顧客”として刺激と励みを与えてくれる小型科学衛星は、連携を通じて互いに切磋琢磨し合える仲間でもあります。今後とも手を携えて成果を挙げるための鍛錬を続けていきますので、皆さまにも叱咤激励とさらなる応援をお願い致します。

(徳留真一郎)