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ISASニュース

ジオスペース探査衛星(ERG)、プロジェクトとして始動

No.378(2012年9月)掲載

地球近傍の宇宙空間であるジオスペースには、MeV(メガ電子ボルト)を超えるエネルギーを持つ粒子が多量に捕捉されている放射線帯(ヴァン・アレン帯)が存在しています。この放射線帯に存在する相対論的なエネルギーを持つ電子(MeV以上)は、太陽風の擾乱に起因する宇宙嵐に伴って生成と消滅を繰り返しています。ジオスペース探査衛星プロジェクト(ERGプロジェクト)は、この相対論的なエネルギーを持つ電子が「どのようにして生まれ、そして消えていくのか」、また宇宙嵐は「どのように発達するのか」を明らかにすることを目指したミッションです。

この謎を明らかにするために、ERGは広いエネルギー帯の粒子、そして広い周波数帯にわたるさまざまなプラズマの波の総合観測を行います。さらに、粒子加速の理解のために必須となるプラズマの波と粒子のエネルギー交換過程を直接検出できる機能も、世界で初めて搭載されます。

ERGは現在、2015年12月の打上げを目指して準備が進められています。ERGプロジェクトには、レーダーや磁力計、オーロラの観測などジオスペースを地上から観測しているグループ、またジオスペースのシミュレーションを行っているグループも参加しています。さらに、これらの多様なデータを統合的に解析するツール開発なども、サイエンスセンターを中心に行われています。このように、太陽地球系科学コミュニティの各研究グループの得意な手法を結集し、衛星―地上観測―シミュレーション・モデリングを組み合わせた総合解析によって、放射線帯粒子加速とジオスペースダイナミクスのメカニズムを解き明かすことを目指しています。

宇宙嵐やそれに起因する放射線帯の粒子は衛星に障害を与え、また宇宙飛行士の宇宙空間における作業にとっても重大なダメージを与えることがあります。放射線帯の粒子の生成過程を知り、粒子変動の予測をすることは、科学的なテーマだけでなく、宇宙空間における人類の活動を安全に行うという宇宙天気予報の重要なテーマにも貢献できると考えています。

ERGプロジェクトの立ち上げに際しては、多くの方からのご支援・ご協力・叱咤激励をいただきました。小型科学衛星の特徴を生かし、「打ち上げたい時期に、狙った場所へ」を合言葉に、イプシロンロケットチームともがっちりとタッグを組みながら、約3年間で衛星開発・打上げに向けて全力で駆け抜けるプロジェクトになります。“難産”であったプロジェクトですが、大きく羽ばたき、世界に誇れる成果を創出するように、チーム一丸となってERGを育て上げていきます。

(高島 健、三好由純)

小型科学衛星SPRINTバスを用いて宇宙空間で観測するERG衛星(想像図)