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ISASニュース

「宇宙学校は学校じゃないよ」の巻

No.377(2012年8月)掲載

千葉県初開催だ!と勇んで応募した「宇宙学校・とうがね」は、7月15日(日)、1200席の東金文化会館大ホール満席!のユメがウインドーワイパーの一拭きのごとくクッキリとはらわれて、親子110名前後のウツツとなった。

開催直前に相模原キャンパスへ伺った際には、参加申し込みが少ないこと、昨年盛況の「はやぶさ帰還カプセル展」以上に気合を込めてPRしたことなどをお話しし平身低頭。それでも宇宙研担当者は「はやぶさは別格ですよ」とサラリと微笑むばかりで、動員数の少なさを責めたりもしない。

ところが、である。校長・阪本成一教授、1時限目の津田雄一助教「はやぶさ・イカロス・日本の太陽系探査」、2時限目の櫨香奈恵宇宙航空研究員「系外惑星をめざして」とも、そんなことはすでに突き抜けているかのように来場者に語り掛け、狂言回したる阪本校長の巧みな話術とともに「質問ある人!」にスッ、スッと小さな子から高校生まで手が挙がり、まさに手妻を見るようだ。だだっ広い原っぱの一隅に車座になって、盛り上がるようにも見えて、満席の夢の結晶のように子どもたちは輝き始める。誰も手を挙げなかったらどうしよう、なんて杞憂であった。

「どうして、はやぶさは四角な面でつくられたんですか?」「四角だと詰め込む機材などいろいろな設計計算がしやすいんです。確かに流線形だとカッコいいけどね」「その惑星は何座の方角にあるんですか?」「研究対象の惑星ははるか彼方で、何座の方向という言い方もしないし、できないし、星座のことはあまりよく知らないんです」。質問する子どもたちに背伸びも感じられず、答える先生も子ども以上に背伸びがない。先生なのに先生じゃない。ただ宇宙科学に関する疑問がかみ砕かれ、あるいは疑問が疑問として吟味され、何かが舞台と客席の間を行ったり来たりしている。質問する子ど もも答える大人も目線は同じ高さで交差する。休憩時間にも終了後も子どもたちは先生に吸い付いて質問が途切れない。余韻嫋嫋、素晴らしい音楽会を聴き終えたような充足感に満たされ、宇宙学校の企画担当として、たかが114人の幸福と幸運を素直に祝福する気持ちになれた。

誤解を恐れずに言えば、宇宙学校とその先生は、私の知る学校でも先生でもなかった。ペンシルロケットから「はやぶさ」のサンプルリターン成功へと続く宇宙研気質、自由闊達なイメージの横溢する「子ども宇宙科学研究所」の名前の方がふさわしいのではとも思えて、宇宙科学研究所の日常をも彷彿させる。

その後、地方での宇宙学校参加者数平均が「ヒャクニサンジュウ」と聞いて、胃の痛みは少し引いたが、それにしても残念だったのは、24年度の最初の宇宙学校が東金で、よその下見ができなかったこと。素晴らしい音楽を文字に変換するのは容易ではないが、音楽会の感動は声を大にして言える。

宇宙学校は小さな運動かもしれないが、学校そのものを考える上でも、人間関係を見直す上でも、刺激的、かつ示唆に富んだイベントであると思う。すなわち、宇宙学校開催を全国の有志に勧めたい。

来場者の「こんな素敵な企画なのに参加者が少ないのはもったいない」。まったくもって仰せの通り。集客戦略の立て直しと周到な準備で、ぜひ再挑戦したい。運動に後戻りはない。

(東金こども科学館/久我敦彦)

休憩時間も先生に質問!