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ISASニュース

内之浦宇宙空間観測所の現状

No.377(2012年8月)掲載

6月27日午後、TV会議をしていた我々の部屋がフッと暗くなりました。照明もTV会議システムも落ちたようです。「停電だ」。その場にいた全員がそのことは理解できていたものの、停電の原因が内之浦宇宙空間観測所(USC)内道路の崩落であったとは、誰も想像できてはいなかったのではないでしょうか。1週間ほど降り続いた雨がさらにその勢いを増したこの日、USCの施設を含む肝付町の各所は大きな被害を被りました。USCの宮原エリアで作業をしていた小型科学衛星1号機SPRINT-Aのチームは国道の崩土、崩落により夜遅くまで孤立状態となるほどでした。

場内の被害現場を見る限り、7月21日に予定していたH-IIBロケットはもちろん、観測ロケットの夏期打上げも、とても対応できるものではないと私は感じました。しかしながら、施設系、総務系、射場系といった各系関係者の迅速な情報収集や状況判断と的確な作業により、見る見るうちに復旧が進んでいきました。被災より10日程度で電力や水などのライフラインはほぼ通常運用をこなせるまでに回復し、そのほかの失われた機能の復旧も早々にめどが立ちました。そして(私にとっては)驚くべきことにスケジュールを乱すことなくH-IIBの打上げに対応し、さらに観測ロケットの夏期打上げを実施する見通しが立っています(本稿が掲載された『ISASニュース』が発行されるころには打上げが終わり、良い成果が出ているものと思います)。これら一連の復旧対応は、あらためてUSCの底力を感じるものでした。

現在の内之浦は、この豪雨災害からの完全復旧作業を継続するとともに、来夏のイプシロンロケット打上げに向けての整備作業が本格化しています。幸い今回の豪雨ではイプシロンの打上げ整備作業の現場となるM台地周辺に大きな被害はなく、イプシロン打上げに向けた各種の工事が現在も粛々と進められています。イプシロンを迎え入れ、小型科学衛星シリーズの1番機SPRINT-Aを宇宙へ連れていくために、縁の下の力持ちとなるべく施設設備も頑張っているところです。11月11日にはUSC開所50周年の記念となる特別公開も予定されていますので、USCへぜひ足を運んでいただければと思います。

(荒川 聡)

内之浦宇宙空間観測所の門衛所〜計器センター間の崩落した道路。
上は2012年6月28日午前9時撮影、下は復旧後の2012年7月24日撮影。