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ISASニュース

イプシロンロケット 構造系開発試験近況報告

No.376(2012年7月)掲載

●イプシロンロケット構造系開発試験最盛期

私ごとですが、3ヶ月連続でイプシロンロケット構造系に関する記事を『ISASニュース』に執筆しています(5月号ISAS事情「SMAP-3報告」、6月号連載「イプシロンロケットの構造系」、そして、この記事)。執筆は確かに大変なのですが、こうして皆さまに紹介できる試験が続出するほどイプシロンロケットの開発が最盛期を迎えていることを実感し、ここまでの道のりを考えると感慨深く、うれしく思います。もちろん、本当の喜びは最後にとっておくべきで、気を引き締めて、試験に臨んでいる毎日です。

さて今月号は、5月から6月にかけて相模原キャンパスで実施した構造系開発試験について報告します。構造コンポーネントの名前については、6月号の記事を参考にしてください。

●第3段機器搭載構造II型(B3PLII型)正弦波振動試験

イプシロンロケットでは1段燃焼中に45〜55Hzくらいの帯域で正弦波振動が発生することが分かっています。搭載機器にどのくらいの振動が負荷されるか解析によって予測してはいますが、正確に確認することは機器設計にとってとても重要です。そこで、機械環境試験室の大型振動試験機を使って、ダミーの搭載機器を載せたB3PLII型コンポーネントに振動をかけ、各部の応答を計測しました。

加振機に載ったB3PLII型とダミー機器の様子を図1に示します。5〜100Hzをゆっくり往復させて加振するのですが、構造各部が共振するたびに大きな音が発生し、また見た目にも大きく振幅する構造もあり、開発メンバーを冷や冷やさせました。無事にきちんとデータが取得できて、今は各搭載機器の振動レベルを評価している最中です。

●衛星分離部(PAF)分離試験

場所を構造試験棟に移し、次はロケットから衛星がきちんと分離できるか、また分離時に発生する衝撃が衛星(お客さま)やロケット搭載機器に対して想定しているレベルに収まっているかを確認する試験です。

試験の様子を図2に示します。イプシロンロケットでは、回転しながら衛星を分離するミッションも想定しているので、構造試験棟にあるスピンテーブルに載せて、1Hzくらいで回転させながら分離します。実際の衛星を載せるのは大変なので、ロケットと結合するリングだけ模擬し、また宇宙空間は重力がないので、ゴムで上に引っ張って衛星側リングの重力をキャンセルして分離させます。図2に見えるたくさんの照明は分離の挙動を細かに確認するために用いる高速度カメラの撮影に必要なものです。分離試験はいろいろな条件で3回実施しましたが、すべて良好な分離が確認できました。

●3段モータケース強度剛性試験

次は構造試験棟の定盤(垂直にそびえ立つ大きな板をご覧になった方もいるかと思います)に場所を移し、3段モータの強度と剛性を確認する試験です。6月号でも紹介したモータケースの最も重要な機能は、燃焼中の高い内部圧力に耐えることです。しかし、モータケースは前と後ろに構造体が付くため、ケース自身も構造体としての役割を果たす必要があります。つまり、ケース自身もつぶされたり引っ張られたり曲げられたりするので、それに耐える強度や硬さ(剛性)を有しているかどうか、確認する必要があります。

図3に示すような供試体を準備します。下側の黒い部分がモータケースで、上側の緑の大きな構造は必要な力をかけるための治工具です。見た目は仰々しいですが、試験中は音もせず、見た目に分かるような大きな変形もないので、淡々と大切なデータを取得して、無事に試験が終了しました。

●まだまだ続く開発試験

ここで紹介できなかった試験(PBS/3段分離試験)もありますし、7月以降本格化する2段・3段モータ伸展ノズルの振動試験および伸展試験、そのほか分離試験や強度剛性試験が11月ごろまで続きます。そして、すべての確認を終えた構造コンポーネントたちは、年末までにメーカー工場に集結し、仮組立試験に入ります。引き続き、皆さまの応援とご協力よろしくお願い致します。

(宇井恭一)

図1 第3段機器搭載構造II型(B3PLII型)正弦波振動試験

図2 衛星分離部(PAF)分離試験

図3 3段モータケース強度剛性試験