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ISASニュース

植物ホルモンを運ぶタンパク質の働きを調べるCsPINs実験

No.375(2012年6月)掲載

CsPINs実験(植物の重力依存的成長制御を担うオーキシン排出キャリア動態の解析、代表研究者:東北大学大学院生命科学研究科高橋秀幸教授)は、1998年に向井千秋宇宙飛行士がスペースシャトルで行った植物実験の解析結果をもとに、国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟での宇宙実験として2005年に選定された宇宙実験です。

植物ホルモンの分布を制御するメカニズムを解明することで、根の伸長方向など植物の形づくりをコントロールできる可能性があり、地上の植物栽培技術や宇宙の植物工場への貢献が期待できます。よく知られている通り、植物の根は重力方向(下方向)、茎は反重力方向(上方向)へ伸長しますが、地球上での栽培では光や水など重力以外の植物の成長を左右する要因が複雑に絡み合い、真の重力影響を取り出すことが困難です。

今回のCsPINs実験では、長期間にわたって良質な微小重力が得られる「きぼう」船内環境下において、植物ホルモンの分布をコントロールするタンパク質(PIN)の発現に及ぼす重力の影響を検証し、植物の形づくりに重力がどのように影響しているのか、その仕組みを明らかにします。また、根が水分の多少を感知して高水分側に伸びる性質(水分屈性)と、根が重力を感知して下側に伸びる性質(重力屈性)との、それぞれにおけるPINの量と分布を分離して解析することで、重力と水分のそれぞれに起因する根の伸び方の違いを明らかにすることを目的としています。試料としてはキュウリの種子を用います。この実験は全8回行われる予定で、2011年4月に最初の実験が行われてから、現時点(2012年5月)までに6回の実験が完了しました。実験が終了したサンプルは地上に回収し、詳細な解析を進めています。すべての実験が完了するのは、2013年後半の予定です。

CsPINsのいくつかの実験では、古川聡宇宙飛行士が「きぼう」内で実験オペレーションを担当しましたが、実験サンプルを固定する作業の際に使用する器具がうまく動作しないトラブルが発生しました。筑波宇宙センターの地上管制員と古川宇宙飛行士による懸命の復旧作業が続けられ、再度の作業によって無事完了したときには、筑波宇宙センターで実験を見守っていた人々の間で拍手が湧き起こりました。一つ一つの実験に実に多くのスタッフが関与していることを実感した瞬間でした。

(東端 晃)

CsPINsの植物容器に給水する古川宇宙飛行士(出典:JAXA/NASA)