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ISASニュース

「ラジオアストロン」スペースVLBIと臼田64m望遠鏡

No.373(2012年4月)掲載

2011年7月18日、バイコヌールからロシアの電波天文衛星「spektr-R」が打ち上げられました。この衛星は近地点およそ2万km、遠地点30万km以上の長楕円軌道に乗り、周波数0.3、1.6、4.8、22GHzで天体からの電波を観測します。「spektr-R」の目的は、宇宙と地球の電波望遠鏡を結んだスペースVLBIを行い、世界最高の解像度で天体を観測することです。このロシアのミッションは「ラジオアストロン」と呼ばれています。

1997年に打ち上げられた「はるか」、打ち上げに至らずに先日ミッション終了を迎えたASTRO-GもスペースVLBIミッションです。これらの計画と今回のロシアの計画との間の大きな違いは軌道高度にあります。VLBIはアンテナ間の距離を延ばすほど解像度が高くなります。日本の計画は遠地点高度2万〜2万5000kmで達成できるアンテナ間距離は地球直径の3倍程度ですが、衛星の軌道周期を短くして天体画像の質を高めるようにしました。一方、「spektr-R」の遠地点高度はその10倍以上で、とことん解像度を上げることにこだわっています。ただし、ある特定の方向しかその性能は出せません。しかし、一方向とはいえ22GHzにおいて7マイクロ秒角という解像度(月面に置かれた1cmの石を地球から見分けられる角度分解能)で天体の情報を得ることができます。これによって活動銀河中心核などを観測し、その表面輝度を調べます。

衛星に搭載された直径10mのパラボラアンテナが宇宙で展開して電波望遠鏡の性能確認が行われ、11月から世界の望遠鏡と共にスペースVLBIの試験観測を開始しました。日本からは臼田64m望遠鏡がラジオアストロンに参加しています。臼田望遠鏡にとっては「はるか」との観測以来久々のスペースVLBIですが、試験観測で見事に衛星との間で天体の干渉信号を得て、ラジオアストロン観測を成功させました。3月までにすべての周波数で天体の干渉信号を検出し、VLBI観測性能が完全に確認されました。また、今年1月から試験観測と並行して初期科学観測もスタートし、地球直径の10倍を超えるアンテナ間距離で天体の干渉信号を検出しています。

臼田望遠鏡は世界的に見て非常に強力な大型電波望遠鏡です。ラジオアストロンを推進するロシアのアストロ・スペース・センターは、臼田の貢献に大きな期待を抱いています。今後は宇宙研からも臼田望遠鏡が参加する初期観測提案を行い、高輝度天体の科学観測にも乗り込みます。最後になりましたが、このロシア―日本のスペースVLBIにご協力いただいている皆さま、応援していただいている皆さまに心より感謝致します。

(朝木義晴)

ラジオアストロンの電波天文衛星と臼田望遠鏡の間で検出した天体の干渉信号(中央部のピークの部分)