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ISASニュース

赤道上での成層圏大気のサンプリング

No.373(2012年4月)掲載

赤道上空の成層圏大気微量成分を観測するため、小型大気サンプリング装置を搭載した大気球を「白鳳丸」(独立行政法人海洋研究開発機構が運行する学術研究船)から計4機放球し、すべて回収することができました。 対流圏大気は赤道上空で成層圏に入って両極に向かって輸送されるため、赤道上空は長年国内外の中緯度や極域で成層圏大気を研究してきた我々成層圏大気サンプリンググループ(代表者:東北大学大気海洋変動観測研究センター 青木周司教授)の極めたい最後の領域でもありました。このプロジェクトは、東京大学大気海洋研究所の植松光夫教授が立案された研究航海に向け、私たち成層圏大気サンプリンググループに共同研究が持ちかけられたのが始まりでした。過去に船上からの大気球放球の例がなかったわけではありませんが、狭い甲板上でどのような放球法を採用するかが一番の課題で、気球グループに検討を依頼し、最適な方法を北海道大樹町の大樹航空宇宙実験場で事前に練習して放球技術を習得しました。しかし、回収可能な範囲にどの程度の確率で観測器を下ろせるのかなど、事前準備段階では必ずしも確認できていない問題を抱えたままの出発でした。

我々メンバー3人はほかの研究者と共に1月27日、ペルーのリマ郊外のカヤオ港で「白鳳丸」に乗り込み、29日午後出航して一路赤道に向かいました。意外にも赤道上は天気も良く海は非常に穏やかで、また操船によって甲板上の風向風速を放球に都合が良いように制御できるため、気球実験には適していることが分かりました。2月2日には小型のゾンデを上げ、航跡予測精度が非常に高いことを確認しました。続いて4日には、B2気球を使って特に問題なく放球作業ができました。同機は高度19km付近での大気サンプリングを行い、無事回収できたことに力を得て、5日にB5、7日にB5、8日にB2各1機を放球し、設定した高度での成層圏大気のサンプリングと観測器の回収も、すべて成功しました。現在国内の関連研究機関では予備的な微量成分分析が行われており、大気試料の量と質に関して問題ないことが確認できました。

放球や回収作業に協力していただいた「白鳳丸」乗船の船員、研究者、学生の皆さん、また関係機関の方々にお礼申し上げます。

(本田秀之)

「白鳳丸」から放球された気球。2012年2月8日午前9時31分30秒(現地時間)。