宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > ISASニュース > 連載の内容 > ISAS事情

ISASニュース

ASTRO-H搭載固定式光学ベンチの振動試験

No.373(2012年4月)掲載

「はくちょう」「てんま」「ぎんが」「あすか」「すざく」に続く我が国6番目のX線天文衛星ASTRO-H(2014年打上げ予定)には、焦点距離5.6mの軟X線望遠鏡が2台、焦点距離12mの硬X線望遠鏡が2台搭載されます。これら4台の望遠鏡を支えるのが固定式光学ベンチ(FOB)です。表紙写真は、そのFOBの全景です。

FOBの構造は、望遠鏡が搭載される最上段のトップパネルを含む3枚のパネルを、縦方向に伸びる複数のトラスで支える形になります。望遠鏡は精密な光学機器なので、軌道上での温度変化に伴うFOBの変形を極度に嫌います。そのためFOBは大部分が炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で製造されています(パネルとトラスはそれぞれ青色と緑色に見えますが、これらは地上での汚染を避けるための保護シートです)。各段のパネルは厚さ70mm、軽量でも強度を稼ぐことのできるアルミハニカムのコアを上下からCFRP板で挟んだ形となっています。トラスを接合する部分にはアルミニウムが使われています。アルミニウムは正の熱膨張係数を持ちますが、CFRPの炭素繊維の配向を工夫し、トラスに負の熱膨張係数を持たせることにより、FOB全体として熱膨張係数がアルミニウムの100分の1以下となるように設計されています。各パネル間の距離は約2mなので、FOBの全長は約6mになりますが、各段のパネルの位置精度は0.5mm以下に抑えられています。

FOBは昨年12月20日に相模原キャンパスC棟の機械環境試験室に持ち込まれ、単体振動試験に供されました。写真は、横方向の振動試験に向けて振動試験器にセットされた状態のものです。振動試験器と比べると、その大きさを実感していただけると思います。重量が大きい(340kg)のもさることながら、重心位置が高く、振動試験器の加振能力ぎりぎりであったため、試験は2月後半までかけて慎重に進められました。想定外のトラブルはあったものの、関係者の努力もあり、すべての試験項目を通過することができました。この原稿を書いている3月後半には熱変形試験を実施しています。この後、衛星システム試験のため4月12日に相模原をたち、4月13日に筑波の総合環境試験棟に搬入されることになっています。

(石田 學)