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ISASニュース

「きぼう」マランゴニ対流観測実験の今

No.372(2012年3月)掲載

「きぼう」日本実験棟初の本格的科学実験としてマランゴニ対流の観察実験が始まったのが2008年8月22日ですから、それから3年半が経過しました。その間、5つのシリーズの実験が実施されました。全体では12シリーズの実験が計画されているので、4割ほどまで進捗したことになります。

2012年2月8日には、第1テーマ第4シリーズの実験観測が完了しました。この実験の最後には大変興味深いデータ取得ができました。

マランゴニ対流実験では、2つの円形ディスクの間に実験流体(シリコーンオイル)を挟み込み液柱を形成します。液柱は外部の振動に対して敏感に応答し、実験中ときどき揺れます。この振動を誘起する要因の1つとして宇宙飛行士(クルー)の動きがあります。そのため、これまで実験はクルーの就寝時間(21:30〜6:00)に行ってきました。我々もそうですが、クルーも就寝時間に入ってもすぐには寝ずにプライベートな時間を楽しんでいるようで、23:00を過ぎるまでは振動がときどき発生しています。液柱が揺れることは実験上望ましくないので、特に長い液柱の実験を行うときは「今晩は長液柱の実験を行うので協力お願いします」と就寝前の交信で伝えるようにしています。このような依頼を続けてきたためか、宇宙飛行士もすごく気を使ってくれています。夜中トイレに行くときも忍び足(?)で動いている、と帰還したクルーに聞きました。最終実験ではこうしたクルーの負担軽減のため、どのような動作が液柱に問題かを調べようと、昼間に実験をしました。その結果、昼間は液柱は常に小さく揺れ続けること、特にクルーがハンドレールをつかんだときに大きく揺れることが分かりました。こうした結果は今後、実験環境を良好に保つための貴重なデータとなります。

また、今回は意図的に液柱を分離し、それぞれのディスク上に半球状液滴を残し、そこに発生するマランゴニ対流や液滴同士の合体条件の観測を行いました(写真)。これにより、液柱の破断条件の理論検証や、マランゴニ対流が存在しているときの破断挙動の特異性のデータが取得できました。今後も、マランゴニ実験は継続的に行われ、多くのデータ取得から科学的成果が創出され、それらを世界に向けて発信していくことでしょう。

(松本 聡)

マランゴニ対流実験での液柱破断分離。
左:液柱破断直前
右:液柱破断後の半球状液滴